姉妹記事では、手話通訳者が派遣で受け取る報酬が全国の過半数の自治体で「見えない」ことをお伝えしました。あの記事は「そもそも、派遣の謝金だけで暮らせるのか」と問いを立てたところで終わっています。

その先に別の集団がいます。派遣で呼ばれるのではなく、雇われて手話通訳をしている人たちです。市区町村の窓口に座り、聴覚障害者情報提供施設で働き、ろうあ協会に雇用されている人たち。人数は全国で2,101人(2024年10月1日時点)。その人たちの労働条件を全国手話通訳問題研究会(全通研)が2025年10月に調べています。

この記事で扱う数字は2025年10月1日時点の実態調査のものです。厚生労働省の令和7年度障害者総合福祉推進事業として実施され、対象2,053人のうち1,427人が回答しています(回答率69.5%)。

自治体に雇用された手話通訳者854人のうち、正規職員は83人。非正規が771人で90.3%です。年間給与の支給総額は平均260.6万円。平均年齢は56.5歳で、60歳以上が42.2%を占めます。

その人たちの76.9%が手話通訳者(統一試験)の資格を持ち、52.9%が手話通訳士の資格を持っています。

1. どんな調査なのか

全通研は雇用された手話通訳者について2種類の調査をしています。混同すると数字が合わなくなるので先に分けておきます。

動態調査は毎年おこなわれている悉皆調査(対象になる人を全員数える調査)です。「全国に何人いるか」を数えるもの。2016年度から毎年、報告と集計シートが公開されています。

実態調査は数年おきの質問紙調査です。「その人たちがどんな条件で働いているか」を聞くもの。1990年から続いていて、直近が今回の2025年です。

2025年の調査票は2025年9月25日に発送され、10月20日が回収期限。対象は福祉・労働・医療・教育の各分野で、自治体や公共機関、各種団体等に雇用されて手話通訳を業務としている人たちです。

回答者1,427人の内訳は、女性1,342人、男性71人、回答しない10人、無回答4人。手話通訳という仕事が圧倒的に女性によって担われていることが、この1行から分かります。

2. 自治体雇用の90.3%が非正規

雇用形態の内訳です。

雇用先回答数正規職員非正規職員
自治体等 全体1,278人243人(19.0%)1,035人(81.0%)
うち自治体854人83人(9.7%)771人(90.3%)
うち団体369人150人(40.7%)219人(59.3%)
教育機関6人2人(33.3%)4人(66.7%)
医療機関21人2人(9.5%)19人(90.4%)
雇用先別の正規職員・非正規職員の割合(2025年) 自治体は正規9.7%・非正規90.3%。団体は正規40.7%・非正規59.3%。医療機関は正規9.5%・非正規90.4%。 雇用先別 正規職員と非正規職員の割合(2025年) 自治体 n=854 9.7% 非正規 90.3% 団体 n=369 正規 40.7% 非正規 59.3% 医療機関 n=21 9.5% 非正規 90.4% 正規職員 非正規職員
雇用先によって、正規で雇われる割合がまるで違う(全通研 2025年実態調査より作成)

自治体に雇われている手話通訳者の10人に9人が非正規です。

団体雇用(ろうあ協会や聴覚障害者情報提供施設など)は正規が40.7%で自治体より高い。財政規模で言えば団体のほうが小さいはずなのに、正規で雇っている割合はこちらのほうが高いという逆転が起きています。

全員を数えた動態調査(2024年10月1日)でも同じ傾向が出ています。自治体は正規104人・非正規883人で、非正規率89.5%。団体は正規258人・非正規449人。数字の出どころが違っても絵は変わりません。

ここで断っておきたいことがあります。これは市区町村が手を抜いている、という話ではありません。自治体の職員定数は条例で決まっていて、手話通訳者のための正規枠を新しく作るのは一つの部署の判断でできることではありません。2020年に会計年度任用職員制度が始まってから、それまでの嘱託・臨時職員がこの枠に移った経緯もあります。制度の側に専門職を正規で抱える経路が用意されていない、ということです。

3. 年収260.6万円という数字

年間給与の支給総額(回答1,278人)です。

  • 200〜300万円未満:26.9%(344人)
  • 300〜400万円未満:24.6%(314人)
  • 平均値:260.6万円

月収で見ると雇用形態の差がはっきり出ます。

最も多い層次に多い層
自治体 正規(83人)30〜35万円 31.3%(26人)25〜30万円 20.5%(17人)
自治体 非正規(385人)20〜25万円 47.5%(183人)15〜20万円 36.1%(139人)
団体 正規(149人)25〜30万円 31.5%(47人)20〜25万円 29.5%(44人)
団体 非正規(82人)15〜20万円 48.8%(40人)20〜25万円 35.4%(29人)

自治体の非正規では8割以上が月15〜25万円の層に入っています。団体の非正規はさらに下で、半数近くが15〜20万円です。

この額を必要とされる技能の水準と並べてみてください。手話通訳士の試験は累計合格率13.7%、直近の第36回(2025年度)で11.2%です。そこを通った人が雇用された場合の年収の平均が260.6万円ということになります。

4. 平均年齢56.5歳 ── 60歳以上が4割

年齢構成(1,278人)です。

雇用された手話通訳者の年齢構成(2025年) 60歳以上が42.2%、50から59歳が36.5%、40から49歳が15.3%。50代以上で78.7%を占める。平均年齢56.5歳。 年齢構成(n=1,278・平均56.5歳) 60歳以上 42.2%(539人) 50〜59歳 36.5%(467人) 40〜49歳 15.3%(196人) 39歳以下 残り約6%
50代以上で78.7%。40代を足すと94%になる(全通研 2025年実態調査より作成)

50代以上で78.7%です。40代を足すと94%になります。

勤続年数を重ねるともう一つ見えるものがあります。

  • 3年未満:19.8%(253人)/3〜5年:17.6%(225人)/6〜8年:15.6%(200人)
  • 9〜11年:13.4%(171人)/12〜19年:17.4%(222人)/20年以上:14.5%(185人)

3年未満が2割いる一方で、20年以上も1割半います。入ってくる人はいる。けれど平均年齢が56.5歳だということは、入ってくる人自身がすでに若くないということです。手話通訳者になるには養成講座を数年かけて受け、統一試験に通る必要があります。その経路を生活を支えながら20代で通り抜けるのは容易ではありません。

手話通訳は通訳する場面ごとに違う知識が要る仕事です。医療の場面、司法の場面、労働の場面、学校の場面。その蓄積は人に貯まるので、人が入れ替わると消えます。60歳以上が42.2%を占めています。いま蓄積を持っている人の多くが、10年のうちに現場を離れる計算になります。

動態調査のほうも見ておきます。2024年10月1日時点の全数は2,101人で、前年の2,124人から23人減っています。増えていません。

5. 資格は持っている

資格の保有状況です。

  • 手話通訳者(都道府県・政令指定都市等が認定=統一試験):983人(76.9%)
  • 手話通訳士(厚生労働大臣認定):677人(52.9%)

雇用されている手話通訳者の半数以上が手話通訳士を持ち、4分の3以上が統一試験の資格を持っています。

つまり、「技能が証明されていないから待遇が上がらない」という説明は成り立ちません。証明はされています。資格と雇用形態が結びついていないというのが、この2つの数字を並べたときに出てくる形です。

6. 35年で人数は3.4倍。正規の比率は動いていない

もう少し長い時間で見てみます。全通研の実態調査は1990年から続いていて、その調査対象者数(=そのとき把握されていた、雇用された手話通訳者の数)がこうなっています。

調査年1990199520002005201020152025
対象者数5988441,1471,3761,5351,8012,053

35年で3.4倍です。事業としては確実に広がってきました。

一方で、正規職員の比率はこうです。

  • 2015年調査(有効回答1,262人):正規192人(17.5%)/非正規902人(82.1%)
  • 2025年調査(自治体等1,278人):正規243人(19.0%)/非正規1,035人(81.0%)

10年でほとんど動いていません。人数は増えたけれど、増えたぶんの大半は非正規で埋められてきた、ということになります。そして自治体だけを取り出せば、正規は9.7%です。

この2つの調査は分母の取り方が同じではありません(2015年は有効回答全体、2025年は自治体等に雇用された人)。比率をそのまま引き算するのではなく、「大きく変わっていない」という程度の読み方にとどめるのが妥当だと考えています。

7. 派遣の謝金とのつながり

この記事の数字は「雇われている人」の話です。手話通訳者にはもう一つ、登録して派遣で呼ばれる人という働き方があります。

全国の市区町村の派遣報酬は一次調査で確かめました。各自治体の要綱・条例・公式サイトに当たって、通訳者本人が受け取る額を拾っていく作業です。その結果、本人額が公開されていたのは13%でした。額そのものも同じ2時間で2,000円から10,000円まで開いていました。

2つを並べるとこう見えます。

  • 派遣で呼ばれる人:1回2時間で数千円。件数は自分では決められない
  • 雇用されている人:年収の平均260.6万円。うち自治体雇用の90.3%が非正規

どちらの入口から入っても、手話通訳を専業として生活を組み立てるのは簡単ではありません。額が見えないことと正規の席が少ないことは、同じ構造の別の断面です。

みなさんの街はどうなっている?

全国の市区町村の派遣報酬を一次調査した結果は地図から確認できます。みなさんの街を見てみてください。

手話通訳報酬マップを見る →

8. この数字の読み方と限界

いくつか注意して読む必要があります。

動態調査と実態調査は別のものです。動態調査(2024年10月1日・全数2,101人)は対象者を全員数えたもの、実態調査(2025年10月1日・有効回答1,427人)は質問紙で条件を聞いたものです。回答率は69.5%なので、実態調査の割合は「答えた人の中での割合」になります。答えなかった約3割がどういう層かは分かりません。

「雇用された手話通訳者」だけの数字です。登録して派遣で活動している人、フリーランスで働いている人は含まれていません。手話通訳に関わる人全体の姿ではありません。

調査対象者数は「把握された人数」です。全通研が調査票を送れた範囲の数なので、実際に雇用されている人が全員含まれているとは限りません。1990年と2025年で把握の精度が同じかどうかも分かりません。3.4倍という数字はそこを踏まえて読む必要があります。

まとめ

雇用された手話通訳者は全国で2,101人(2024年10月1日)。前年から23人減っています。自治体に雇用された854人のうち、正規は83人(9.7%)。年間給与の支給総額は平均260.6万円、平均年齢は56.5歳で60歳以上が42.2%。そのうち76.9%が統一試験の資格を、52.9%が手話通訳士を持っています。

1990年からの35年で人数は3.4倍になりましたが、正規の比率は2015年17.5%→2025年19.0%とほとんど動いていません。

ここに書いたのは一つの読み方です。地域によって事情はまったく違いますし、同じ非正規でも自治体によって条件は相当に異なります。現場にいるみなさんから見て違うと感じるところがあれば、お問い合わせフォームから教えてください。

出典

  • 一般社団法人 全国手話通訳問題研究会『手話通訳者の労働環境等の実態に関する調査研究 ~2025年雇用された手話通訳者の労働と健康について~ 報告書』(厚生労働省 令和7年度障害者総合福祉推進事業)PDF
  • 同『雇用された手話通訳者の動態調査 2024年度』報告集計シート
  • 同『雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究 報告書』(2016年8月20日発行・2015年調査)PDF
  • 同『雇用された手話通訳者の労働と健康についての実態に関する調査研究 報告書』(厚生労働省 令和2年度障害者総合福祉推進事業・2021年3月)PDF
  • 全通研 調査・研究の一覧