はじめに
手話通訳者全国統一試験は、手話通訳者を目指すすべての人が通る関門です。しかし、試験の情報はネット上に散らばっており、体系的にまとめた資料はほとんど存在しません。
本記事では、試験の概要から最新の合格率データ、筆記試験の具体的な勉強法、2025年6月に成立した手話施策推進法の影響まで、受験を考えている方に必要な情報をすべて網羅しました。
近年は合格率が低下傾向にあり、試験の最新動向を正確に把握することがこれまで以上に重要です。
近年、合格率は低下傾向にあり、受験者にとって厳しい状況が続いています。筆記試験・実技試験の両方で合格基準を満たす必要があるため、計画的な学習が重要です。
統一試験の概要
手話通訳者全国統一試験は、社会福祉法人 全国手話研修センターが問題を作成し、各都道府県・政令指定都市の聴覚障害者関連団体が実施する試験です。毎年12月上旬に全国一斉に行われ、略称は「統一試験」。
合格者は「手話通訳者となる資格を有する者」となり、各都道府県の登録手話通訳者として活動できます。なお大阪府は長く独自の登録試験制度を採用しており、統一試験を利用していませんでした。ただし2025(令和7)年度は、事業報告書によると52団体・全都道府県で実施されています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 試験名称 | 手話通訳者全国統一試験 |
| 実施主体 | 全国手話研修センター(問題作成)+各都道府県団体(実施) |
| 試験日 | 毎年12月上旬(土曜日) |
| 試験構成 | 筆記試験(100分)+ 実技試験(場面通訳) |
| 合格基準 | 公式非公表(受験対策の現場では筆記おおむね7割・実技おおむね7.5割が目安として語られる。→ 合格ラインの詳細) |
| 受験資格 | 手話通訳者養成課程修了者 または同等の知識・技術を有する者 |
| 合否発表 | 翌年3月 |
試験日程・スケジュール
| 時期 | 内容 |
|---|---|
| 8月〜9月 | 受験申込期間(2026年度: 8/1受付開始。締切は都道府県の実施団体ごとに異なる) |
| 9月頃 | 各地で受験説明会 |
| 12月第1土曜日 | 試験日(2026年度: 12/5(土)) |
| 翌年3月 | 合否通知発送 |
受験申込は各都道府県の実施団体に直接行います。申込方法は自治体によって異なり、郵送のみの都道府県、来所のみの都道府県、オンラインフォーム対応の都道府県と様々です。早めにお住まいの都道府県の実施団体に問い合わせることをおすすめします。
試験内容(筆記+実技)
筆記試験(100分)
筆記試験は「手話通訳に必要な基礎知識」と「国語」の2分野で構成されます。
基礎知識(20問・4択) — 障害者福祉の法制度、聴覚障害の基礎知識、手話通訳の理念と倫理、手話通訳者の登録制度、ソーシャルワークの基礎など。テキスト全体から幅広く出題されます。
国語 — 発音・アクセント、単語(類義語・同音異義語・慣用句・四字熟語)、文法(品詞・文の構造)、文字(漢字の読み書き・仮名遣い・表記法)、文章の読解・要約。手話通訳には正確な日本語力が不可欠であり、国語は侮れない分野です。
実技試験(場面通訳)
ビデオカメラの前で、設定された場面(行政窓口、病院、学校など)での通訳を行います。聞き取り通訳と読み取り通訳の両方が審査されます。
ポイント: 合格基準の数値は公式には公表されていませんが、現場で目安とされる筆記7割(概ね14問/20問以上)を下限と考えると、1問のミスが合否を分けます。テキスト全範囲の理解が求められます。
合格率の推移
【2026.08.21 訂正】 この節にはもともと「統一試験の合格率は、公式には一般公開されていません。受験者への結果通知に記載されるのみ」と書いていました。これは誤りでした。しっかりと調べたところ、公式の資料から確認を取ることができました。社会福祉法人 全国手話研修センターが毎年公表している事業報告書に、全国の申込者数・受験者数・合格者数・合格率が明記されています。おわびして訂正します。
統一試験の全国合格率は、全国手話研修センターの事業報告書で毎年公表されています。さらに2021(令和3)年度版までは、巻末の資料編に2001年からの推移が一覧表として付いています。直近7年分は次のとおりです。
| 年度 | 申込者数 | 受験者数 | 合格者数 | 合格率 |
|---|---|---|---|---|
| 令和元(2019) | 2,014 | 1,881 | 377 | 20.04% |
| 令和2(2020) | 1,457 | 1,348 | 282 | 20.92% |
| 令和3(2021) | 1,531 | 1,444 | 295 | 20.43% |
| 令和4(2022) | 1,667 | 1,535 | 281 | 18.31% |
| 令和5(2023) | 1,777 | 1,690 | 256 | 15.15% |
| 令和6(2024) | 1,962 | 1,852 | 333 | 17.98% |
| 令和7(2025) | 2,181 | 2,059 | 171 | 8.31% |
2025(令和7)年度の8.31%は、統一試験が始まった2001年度からの25年間で唯一の1桁です。それまでのいちばん低い年でも11.77%(2014年度)でした。しかも同じ年に受験者数は2,059人と過去最多を更新し、事業報告書で確認できる範囲では初めて全都道府県で実施されています。
25年分の全国データと、その数字がどの資料のどこに載っているかは、別記事にまとめました。
合格率8.31%は、25年でいちばん低い ── 手話通訳者全国統一試験、令和7年度に何が起きたのかなお、合格基準(何点で合格になるか)の数値は公式には公表されておらず、受験対策の現場では筆記おおむね7割・実技おおむね7.5割が目安として語られています。公式に確認できる情報と目安の扱い方は合格ラインの記事で詳しく整理しています。
合格率低下の背景には、実技試験の評価厳格化、受験者層の変化(養成課程修了直後の経験の浅い受験者の増加)、障害者情報アクセシビリティ法等の最新法制度知識を求める出題の質的変化が考えられます。
注目: 近年の受験者増加は、デフリンピック東京2025大会の開催や手話施策推進法の成立による手話への社会的関心の高まりを反映している可能性があります。
都道府県別データ
都道府県・政令指定都市ごとの申込者数・受験者数・合格者数も、2021(令和3)年度までは事業報告書の巻末資料で公表されています。そこから県別の合格率を計算することができます。
合格率には地域差があります。2021(令和3)年度でいえば、受験者が多い県では埼玉県が83人受験・25人合格、東京都が129人受験・31人合格。一方で、その年に合格者が0人だった県もありました。背景には養成講座の規模やろう者と接する機会の多さの違いがあるとされます。
合格者がゼロの都道府県では、その年に新規の手話通訳者が輩出されないことを意味し、災害時を含む情報保障の確保が課題となります。
ただし、2022(令和4)年度以降に公開されている事業報告書は本文のみで資料編が付いていないため、都道府県別のデータは2021年度が最後です。直近4年分の県別合格率は、公開されている資料からは算出できません。
2001〜2021年度の21年分の県別データは、別記事に全部まとめました。
累計合格者数トップは、東京ではなく兵庫県 ── 統一試験 都道府県別データ21年分出題範囲テキスト一覧
筆記試験の出題範囲は以下の公式テキストに準拠しています(2025年度版)。
| テキスト名 | 版情報 | 内容 |
|---|---|---|
| 手話奉仕員養成のための講義テキスト | 第4版(2025年4月) | 福祉制度・聴覚障害の基礎 |
| 手話通訳Ⅰ ホップ ステップ ジャンプ | 第3版6刷(2025年2月) | 手話通訳の基礎 |
| 手話通訳Ⅱ ホップ ステップ ジャンプ | 第5版(2024年7月) | 手話通訳の応用 |
| 手話通訳Ⅲ ホップ ステップ ジャンプ | 第2版(2025年4月) | 手話通訳の実践 |
| 手話通訳者養成のための講義テキスト 改訂版 | 第4版(2025年2月) | 手話通訳者養成全般 |
テキストの正誤表は全国手話研修センターのWebサイトで公開されています。
筆記試験の勉強法
基礎知識の対策
過去問分析によると、「障害者福祉概論」と「手話通訳の心構え」からの出題が特に多く、障害者基本法、身体障害者福祉法、障害者総合支援法などの法制度分野は毎年出題される最重要テーマです。
効率的な学習の優先順位は、まずテキスト全範囲を一読して全体像を把握し、次に過去問を解いて出題パターンを掴み、間違えた箇所をテキストに戻って深掘りするサイクルが有効です。
国語の対策
国語は「やれば取れる」分野ですが、対策を怠ると思わぬ落とし穴になります。特に以下の4領域を重点的に:
- 慣用句・四字熟語 — 五里霧中、画竜点睛、朝令暮改など、日常であまり使わないものも出題されます
- 敬語 — 尊敬語・謙譲語・丁寧語の使い分け。手話通訳では場面に応じた敬語の切り替えが求められるため、実務に直結する分野です
- 同音異義語 — 「以外/意外」「対象/対照/対称」など。手話通訳では音声を正確に聞き取って適切な漢字を想起する力が必要です
- 漢字の読み書き — 福祉・医療分野の専門用語の正確な読み方
学習のコツ: 合格者の体験談では、テキストのコラムやミニ情報をスマホに入れて通勤時間に読む方法が効果的だったという声が多くあります。
手話施策推進法の成立と影響
2025年6月18日、手話に特化した初の法律「手話に関する施策の推進に関する法律(手話施策推進法)」が衆議院本会議で全会一致により可決・成立し、6月25日に施行されました。
この法律は、手話が言語であり重要な意思疎通の手段であることを国レベルで法的に位置づけ、9月23日を「手話の日」と規定しました。国や地方公共団体の責務として手話の普及や手話通訳者の確保が明記されています。
また、2025年11月には日本初のデフリンピック東京大会が開催され、手話への社会的関心がかつてないほど高まった年となりました。
これらの動きは統一試験にも影響を及ぼしています。近年の受験者数増加は、こうした社会的関心の高まりを反映していると考えられます。今後、養成予算の拡充や残りの条例未制定6都道府県への波及効果も期待されます。
今後の出題に注目: 手話施策推進法やデフリンピックに関連する問題は、今後の統一試験で出題される可能性が高いテーマです。法律の概要と成立の経緯を押さえておきましょう。
手話通訳者と手話通訳士の違い
| 比較項目 | 手話通訳者(統一試験) | 手話通訳士 |
|---|---|---|
| 資格の根拠 | 全国手話研修センターが基準提供、各都道府県団体が認定 | 厚生労働省令に基づく厚生労働大臣認定 |
| 試験実施 | 全国手話研修センター | 聴力障害者情報文化センター |
| 試験時期・会場 | 12月(年1回)・全国49団体 | 7月+9月(年1回)・全国4か所 |
| 登録先 | 各都道府県の聴覚障害者関連団体 | 聴力障害者情報文化センター |
| 登録者数 | 公式な全国集計は非公開 | 4,375人(2026年3月現在・厚生労働省公式) |
| 政見放送の通訳 | 担当できない | 担当できる(公職選挙法に基づく) |
| 裁判での通訳 | 担当できない | 担当できる |
| 地域の派遣業務 | 市町村の意思疎通支援事業の中核(通院・行政手続・地域活動等) | 専門性の高い案件(手術・訴訟等)や広域派遣 |
| 地域コミュニティ | 一般的に、ろう協・手話サークル等と日常的に連携 | 日本手話通訳士協会に所属 |
| 資格の性質 | 名称独占ではない | 名称独占(「手話通訳士」を名乗れる) |
手話通訳者と手話通訳士は制度上の区分であり、通訳技術の上下を示すものではありません。地域の情報保障は通訳者が日々支え、政見放送や裁判など公的場面は通訳士が担うという、役割の違いです。
なお、厚生労働省の公式データによると手話通訳士の登録者数は全国で4,375人(2026年3月現在)です。手話施策推進法(2025年6月施行)では、手話通訳者の確保が国・地方公共団体の責務として明記されており、通訳者の養成と確保は社会的な課題となっています。
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合格したあと、報酬はどうなっているか
統一試験に合格して登録通訳者になると、派遣のたびに報酬が支払われます。この金額は自治体ごとに決められていて、同じ2時間の派遣でも地域によって違いがあります。市区町村ごとの実際の金額を、要綱などの一次資料をもとに地図にまとめています。
手話通訳報酬マップを見る →まとめ
手話通訳者全国統一試験は、年々難化傾向にあります。しかし、手話施策推進法の成立やデフリンピック開催など、手話通訳者の需要はこれまで以上に高まっています。
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本記事の情報が、統一試験に挑戦する皆さんの一助となれば幸いです。