「手話通訳士」と「手話通訳者」。名前が一文字しか違わないので、同じ資格の呼び方が二通りあるのだと思っている方が少なくありません。実際には、実施する団体も、根拠となる制度も、試験の時期も違う別の資格です。

この記事では、手話通訳士になるための「手話通訳技能認定試験」について、公式に確認できる情報だけを整理します。そのうえで、手話通訳者全国統一試験との違いを表で並べます。

先にお伝えします: 2026年度(第37回)の受験申込は2026年5月20日で締め切られており、学科試験も7月26日に実施済みです。これから申し込める最も近い回は2027年度(第38回)で、申込は例年4月ごろに始まります。「今年受けたい」と思ってこの記事にたどり着いた方には残念なお知らせですが、逆に言えば準備に9か月あるということでもあります。

手話通訳士とは何か

正式な試験名は「手話通訳技能認定試験」で、通称が手話通訳士試験です。実施しているのは社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター

ここが統一試験といちばん違うところなのですが、この試験には省令という国のルールが根拠としてあります。同センターは「手話通訳を行う者の知識及び技能の審査・証明事業の認定に関する省令」(平成21年3月31日 厚生労働省令第96号)に基づき、厚生労働大臣の認定を受けて、試験の実施と手話通訳士の登録事務を行っています。

言い換えると: 手話通訳士は「国が定めた省令にもとづいて、大臣が認定した団体が審査・登録する資格」です。国家資格そのものではありませんが、根拠が省令にある点で、民間の検定とは位置づけが異なります。

手話通訳者(統一試験)との違い

混同されやすい2つを並べます。

手話通訳手話通訳
試験名手話通訳技能認定試験手話通訳者全国統一試験
実施聴力障害者情報文化センター全国手話研修センター(問題作成)+各都道府県団体(実施)
根拠厚生労働省令第96号/厚生労働大臣の認定各都道府県団体による登録
試験時期学科7月+実技9月(年1回・2日程)12月上旬(年1回)
試験地埼玉・東京・大阪・福岡の4か所各都道府県
受験資格20歳以上手話通訳者養成課程修了者 等
受験手数料22,000円実施団体により異なる
合格率累計13.7%(第36回は11.2%)公表されず(例年10〜20%台とされる)

実務のうえで大きいのは試験地の違いだと思います。統一試験が各都道府県で受けられるのに対し、通訳士試験は全国4か所のみ。学科と実技が別日程なので、遠方の方は2回の遠征が必要になります。受験手数料22,000円とは別に、交通費と宿泊費がかかる前提で考えておく必要があります。

試験の中身と日程

学科試験

4科目です。障害者福祉の基礎知識/聴覚障害者に関する基礎知識/手話通訳のあり方/国語。統一試験の筆記が「基礎知識+国語」の2分野であるのに対し、通訳士試験は「手話通訳のあり方」が独立した科目として立っているのが特徴です。

実技試験

2種類あります。聞取り通訳試験(音声による出題を手話で解答)と、読取り通訳試験(手話による出題を音声で解答)。双方向が問われます。

第37回(2026年度)の日程

受験申込2026年4月21日(火)〜5月20日(水)※当日消印有効【終了】
学科試験2026年7月26日(日)【実施済み】
実技試験2026年9月27日(日)
受験資格20歳以上(受験日の属する年度末までに20歳に達する者を含む)
受験手数料22,000円(税込)
試験地埼玉県立大学/日本社会事業大学 清瀬キャンパス/パナソニック オペレーショナルエクセレンス(大阪)/福岡女子大学

参考までに、前回(第36回)は学科試験の合格発表が2025年8月29日、最終結果の公表が2026年1月30日でした。申込から最終結果まで9か月かかる長い試験です。

合格率の実像 — 累計13.7%、直近(第36回・2025年度)は11.2%

実施団体が第1回から第36回までの推移を公表しています。まず全体像から。

  • 累計申込 34,596名 / 累計受験 32,230名 / 累計合格 4,426名
  • 通算合格率 13.7%

ただし、この13.7%という数字だけを見ると実態を見誤ります。直近10回(第27回・2016年度〜第36回・2025年度)の推移を並べると、年によって合格率が大きく振れていることがわかります。

15% 7.5% 0% 2.111.28.2 9.811.09.6 13.312.25.5 11.2 272829 303132 333435 36 201620172018 201920202021 202220232024 2025 回次 / 実施年度
手話通訳技能認定試験 第27回(2016年度)〜第36回(2025年度)の合格率(実施団体の公表資料より作成)

最も低い第27回(2016年度)が2.1%(受験1,076名に対し合格23名)、最も高い第33回(2022年度)が13.3%。第35回(2024年度)も5.5%と落ち込んでいます。受験者数は毎年1,000〜1,100名台でほとんど変わらないのに、合格者数は23名から146名まで動きます。

ここから読み取れること: 受験者数が安定しているのに合格者数が年ごとに大きく動くということは、合格率が受験者側の出来だけで決まっていない可能性を示します。もっとも、実施団体は合格基準を公表していないため、これは推測の域を出ません。確実に言えるのは「年によって2.1%から13.3%まで振れる試験なので、1回で受かる前提の計画は立てないほうがいい」ということです。

合格者の4割が50代という事実

第36回=令和7年度(受験1,113名・合格125名・合格率11.2%)の合格者を年代別に見ると、この試験の性格がよく出ています。

年代合格者数構成比
20代12名9.6%
30代15名12.0%
40代37名29.6%
50代50名40.0%
60歳以上11名8.8%
合計125名平均年齢 47.1歳

40代と50代だけで69.6%。平均年齢は47.1歳です。20代の合格者は12名しかいません。

これは「若い人には無理」という話ではないと思います。手話通訳は、手話の技術だけでなく日本語の運用力と、話題になっている事柄への理解が要る仕事です。医療、法律、労働、教育——通訳の現場で出てくる話題は生活そのもので、経験の蓄積がそのまま力になります。年代の分布は、この試験が積み上げに時間のかかる技能を測っていることの表れだと読むほうが自然です。

裏を返せば、いま20代・30代で受け始める方は、時間という最大の資源を持っているということでもあります。

どちらを目指すべきか

順序としては統一試験(通訳者)が先になるのが一般的です。統一試験に合格すると都道府県の登録手話通訳者となり、派遣の現場に立てます。その実務経験を積みながら通訳士を目指す、という流れです。

ただし、通訳士試験の受験資格は20歳以上というだけで、統一試験の合格は要件ではありません。制度上は、いきなり通訳士試験を受けることもできます。

現実的な判断材料: 通訳士試験は年1回・全国4か所・学科と実技が別日程で、受験手数料22,000円に加えて遠征費がかかります。合格率も2.1%〜13.3%と振れます。一方、統一試験は各都道府県で受けられます。まず統一試験で実務に入り、通訳士は中長期の目標に置く——時間と費用の面では、こちらのほうが無理がないと思います。

もっとも、これは一つの考え方です。地域によって養成講座の開講状況も派遣の実態も違いますし、お住まいの地域の通訳者の方に直接聞くのがいちばん確かです。

まとめ

  • 手話通訳士と手話通訳者は別の資格。 通訳士は厚生労働省令にもとづく大臣認定、通訳者は各都道府県の登録です。
  • 通算合格率13.7%、直近の第36回(2025年度)は11.2%。 ただし年によって2.1%〜13.3%と振れるので、1回で受かる前提では組まないこと。
  • 2026年度は申込終了・学科実施済み。 次に受けられるのは2027年度で、申込は例年4月ごろです。

準備期間が9か月あると考えると、いまは焦らずに土台を作る時期です。学科の4科目のうち「障害者福祉の基礎知識」と「聴覚障害者に関する基礎知識」は統一試験と重なる部分が多いので、両方を視野に入れて進めるのが効率的だと思います。

この記事は公式に確認できる情報だけで構成しています。合格基準など公表されていない事項については、憶測で数字を書かないようにしました。試験の詳細は必ず実施団体の公式サイトでご確認ください。

参考・出典
※ 回次と年度の対応について:実施団体は第34回=令和5年度、第35回=令和6年度、第36回=令和7年度、第37回=令和8年度と公表しています。本記事のグラフでは、年1回の実施が途切れず続いていることから、この対応をさかのぼって第27回=平成28年度(2016年度)まで付けています。 ・手話通訳技能認定試験(手話通訳士試験)/社会福祉法人 聴力障害者情報文化センター
https://www.jyoubun-center.or.jp/slit/exam/
・試験案内・受験申込等(第37回・令和8年度)
https://www.jyoubun-center.or.jp/slit/exam/about/
・手話通訳士関連(制度の根拠・登録事務)
https://www.jyoubun-center.or.jp/slit/
・第1回から第36回までの合格者概況(推移)
https://www.jyoubun-center.or.jp/jbmain/wp-content/uploads/2026/01/1-36_transition.pdf
・第36回(令和7年度)試験結果
https://www.jyoubun-center.or.jp/jbmain/wp-content/uploads/2026/01/36_result_summary.pdf

※ 本記事は2026年8月6日時点の公表情報に基づく、一つの整理です。地域差・個人差があります。お気づきの点があればお問い合わせからお知らせいただけると助かります。