手話通訳士試験(手話通訳技能認定試験)の科目Ⅱ「聴覚障害者に関する基礎知識」では、聴力検査の問題が毎年のように出ています。公開されている直近3回だけでも、第35回はABR、第36回はASSRと乳児の検査、第37回は他覚的検査が問われました。
この記事では、検査を「本人が答える検査」と「反応を機械で記録する検査」に分けて整理します。新生児聴覚検査の流れも、国の通知で確かめながら書きます。オージオグラムの読み方は前の記事にまとめています。
試験で押さえる要点
- 自覚的検査は本人の応答や行動で判断する。純音聴力検査・語音聴力検査・BOA・COR・遊戯聴力検査
- 他覚的検査は本人の応答を使わず、反応を機械で記録する。ティンパノメトリー・OAE・ABR・ASSR
- OAEは蝸牛の外有毛細胞の働きを見る。聴神経より奥の障害は分からない
- ABRは眠っている間に測れる。手帳の2級を新たに診断するときは、ABRなどの他覚的検査が必要
- ASSRは500・1000・2000・4000Hzの周波数ごとに聴力を推定できる
- 新生児聴覚検査は自動ABRが望ましい。初回は生後3日以内、精密検査は3か月頃まで、療育は6か月頃まで
1. 試験でどう問われているか
手話通訳士試験(手話通訳技能認定試験)
科目Ⅱ「聴覚障害者に関する基礎知識」で、公開されている第35回(2024年度)から第37回(2026年度)では、聴力検査がこう出ています。
- ABR(聴性脳幹反応)
第35回 - 聴力検査の方法・種類
第35回 - 語音による検査(身体障害認定基準)
第36回 - ASSR(聴性定常反応)
第36回 - 乳幼児の聴力検査
第36回 - 他覚的検査(OAEなど)
第37回
第34回以前にも、標準純音聴力検査、ティンパノメトリー、ABR、聴力検査の方法、新生児聴覚スクリーニング検査が出ています。
第35〜37回は聴力障害者情報文化センターが公開している問題で確かめました。第34回以前の出題は、日本手話通訳士協会『手話通訳技能認定試験 模範解答集』巻末の出題内容一覧によります。問題文は載せていません。
手話通訳者全国統一試験の受験者が学習する手話奉仕員の養成カリキュラム(厚生労働省 令和5年6月26日通知)は、「聴覚障害の基礎知識」で耳の仕組みや補聴器・人工内耳を扱いますが、検査の種類までは項目に挙げていません。この記事は手話通訳士試験の受験者向けです。
2. 自覚的検査と他覚的検査
聴力検査は、大きく2つに分けられます。
- 自覚的検査:音が聞こえたら手を挙げる、ボタンを押す、音のほうを振り向くといった本人の応答や行動で判断する検査
- 他覚的検査:本人が答えなくても、耳や脳の反応を機械で記録する検査
他覚的検査は、眠っている赤ちゃんや、応答がむずかしい人にも使えます。身体障害認定要領も、手帳を持っていない人に2級を新たに診断するときは「聴性脳幹反応等の他覚的聴覚検査」を行うよう求めています。
もうひとつの見方は、耳のどこまでを調べているかです。音は外耳・中耳を通って内耳の有毛細胞で電気の信号に変わり、聴神経から脳幹、脳へ伝わります。検査によって、この道のりのどこまでを調べるかが違います(図1)。
- 自覚的本人が答える検査:脳まで(「聞こえた」と気づくところまで)
- 他覚的OAE:内耳まで
- 他覚的ABR・ASSR:脳幹まで
OAEが正常でもABRで反応が出ないときは、内耳より奥の聴神経から脳幹のあたりに原因があると考えられます。
3. 本人が答える検査自覚的
標準純音聴力検査自覚的
ヘッドホンから周波数ごとに「ピー」という純音を出し、聞こえたら合図をしてもらって、聞こえ始めの大きさを測ります。結果はオージオグラムに書きます。耳の後ろの骨に振動を当てる骨導の検査もあり、気導と骨導の差から伝音難聴か感音難聴かを見分けます。くわしくはオージオグラムの記事に書いています。
語音聴力検査自覚的
音の大きさではなく、ことばがどれくらい聞き取れるかを調べます。身体障害認定基準では、単音節の検査語を普通の話し声の大きさで聞かせ、正しく聞き取れた割合を「語音明瞭度」として出します。手帳の4級には、この語音明瞭度が50%以下という基準があります。
乳幼児の検査(BOA・COR・遊戯聴力検査)自覚的
ヘッドホンをつけて合図をすることがむずかしい年齢の子には、行動を見る検査を使います。
- やり方
- 背中や横から楽器などの音を出し、驚く・振り向くといった反応を見る
- 年齢
- 乳児
- やり方
- 音が鳴ると光るおもちゃのほうを見るように覚えてもらい、周波数ごとの聴力を測る
- 年齢
- 6か月〜2歳頃
- やり方
- 受話器をつけ、音が聞こえたら遊具のボタンを押す。左右別に測れる
- 年齢
- 3歳以上
COR・遊戯聴力検査は、行動を使うので自覚的検査に入ります。
4. 反応を機械で記録する検査他覚的
ティンパノメトリー他覚的
外耳道に細い管を入れて空気の圧を変え、中耳の状態を調べます。中耳の圧、中耳に液がたまっていないか、耳小骨がよく動くかが分かり、滲出性中耳炎や耳小骨の異常を見つけるのに使います。
OAE(耳音響放射)他覚的
音を入れると、内耳の蝸牛からごく小さな音が返ってきます。それを外耳道に入れたプローブで記録します。OAEは蝸牛の外有毛細胞の働きをみる検査です。短い時間で検査できますが、外耳道が狭いときや中耳に液がたまっているときは反応が出ないことがあります。
内耳より奥、つまり聴神経の障害は、OAEでは見つけられません。神奈川県の新生児聴覚スクリーニング検査の手引きも、OAEは「内耳より中枢にある聴神経などの障害は検出できません」と書いています。
ABR(聴性脳幹反応)他覚的
眠っている間に頭に電極をつけ、音を聞かせたときの聴神経から脳幹までの電気の反応を記録します。刺激音にはクリック音が多く使われ、主に2000〜4000Hz付近の聴力を反映するとされています。出生直後から検査できます。
新生児聴覚検査で使う自動ABRは、新生児の検査用に開発された機器です。ささやき声くらいの小さな音に対する脳波の反応を調べ、結果はパス(反応あり)かリファー(要再検)で出ます。
ASSR(聴性定常反応)他覚的
ABRと同じように、音に対する脳の電気の反応を記録する他覚的検査です。ABRと違い、500・1000・2000・4000Hzの周波数ごとに聴力を推定できます。話しことばに必要な周波数をくわしく調べられます。眠っている間に30分から1時間ほどかかります。
- 調べる
- 中耳
- 要点
- 中耳の圧・貯留液・耳小骨の動き
- 調べる
- 内耳(外有毛細胞)
- 要点
- 短時間。聴神経の障害は分からない
- 調べる
- 聴神経〜脳幹
- 要点
- クリック音。2000〜4000Hz付近。手帳2級の新規診断
- 調べる
- 聴神経〜脳幹
- 要点
- 周波数ごとに推定できる
5. 新生児聴覚検査の流れ
生まれてすぐの赤ちゃんには、産科で新生児聴覚検査が行われます。国の通知「新生児聴覚検査の実施について」は、時期の目安を次のように示しています(厚生労働省 平成29年12月28日改正通知)。
- 初回検査はおおむね生後3日以内、リファーなら確認検査をおおむね生後1週間以内
- 精密検査は遅くとも生後3か月頃まで
- 支援が必要な子の療育は遅くとも生後6か月頃までに始める
令和5年10月の改正(こども家庭庁)で、初回検査と確認検査は自動ABRで行うことが望ましいとされました。理由として挙げられているのが聴神経難聴スペクトラム(ANSD)です。ANSDでは内耳の働きが正常に近いためOAEではパスになる一方、聴神経の働きに異常があるため自動ABRではリファーになります。
同じ改正で、確認検査がリファーだったときは、生後3週間以内に先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染の検査を行うことが勧められています。尿で調べ、生後3週間以内なら保険が使えます。
6. 試験の前に見直す点
- 他覚的検査はティンパノメトリー・OAE・ABR・ASSR。COR・遊戯聴力検査・ピープショウテストは行動を使う検査
- ティンパノメトリーは中耳。滲出性中耳炎の発見に使う
- OAEは外有毛細胞。聴神経の障害は見つけられない
- ABRはクリック音で2000〜4000Hz付近。睡眠中に測れる
- ASSRは周波数ごと(500〜4000Hz)に推定できる
- 乳児はBOA、6か月〜2歳頃はCOR、3歳以上は遊戯聴力検査
- 新生児聴覚検査:初回3日・確認1週間・精密3か月・療育6か月。自動ABRが望ましい。CMV検査は3週間以内
おわりに
検査の名前は略語が多く、似たものが並びます。「本人が答えるか、機械が記録するか」と「耳のどこまでを見ているか」の2つで分けると、選択肢を絞りやすくなります。
聞こえにくさを疑似的に体験したいときは、まなびパレットの教材も使ってみてください。
みみのせかい ── 耳のしくみ・オージオグラム・難聴の種類を学ぶ きこえシミュレーター ── 難聴の聞こえ方を体験するここでの整理は一つの考え方です。検査のやり方や年齢の目安は、医療機関や地域によって違うことがあります。「講座ではこう習った」「この説明は違うのでは」というご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せください(記事名は自動で入力されます)。
主な参考資料
- 厚生労働省「新生児聴覚検査の実施について」の一部改正について(平成29年12月28日 子母発1228第1号)(PDF)
- こども家庭庁「新生児聴覚検査の実施について」の一部改正について(令和5年10月3日 こ成母第277号)(日本助産師会 掲載のPDF)
- 愛媛県保健福祉部「愛媛県新生児聴覚検査実施マニュアル」平成30年8月(令和6年10月改訂)(PDF)
- 神奈川県母子保健対策検討委員会「新生児聴覚スクリーニング検査の手引き」令和6年3月(PDF)
- 京都府「5.精密検査」(新生児聴覚検査の手引きの抜粋)(PDF)
- 滋賀県立総合病院 小児耳鼻いんこう科「乳幼児聴力検査」(pref.shiga.lg.jp)
- 厚生労働省「身体障害認定基準の取扱い(身体障害認定要領)について」平成15年1月10日 障企発第0110001号(PDF)
- 厚生労働省「身体障害者障害程度等級表の解説(身体障害認定基準)について」平成15年1月10日 障発第0110001号(PDF)
- 厚生労働省「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」令和5年6月26日 障企自発0626第1号(PDF)
- 日本手話通訳士協会『手話通訳技能認定試験 模範解答集』第29〜36回 巻末「各科目 過去5年間の出題内容一覧」
- 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター「過去問題」第35〜37回 学科試験(jyoubun-center.or.jp)