先日、手話通訳者の養成講座を受けているみなさんのあいだで「モーラ」ということばが話題になっていました。日本語の音を数えるための単位です。では「ニッポン」はいくつか。4つとも2つとも言えます。どちらも間違いではなく、数えている単位が違うだけです。
手話通訳者全国統一試験の筆記試験には「国語」があり、その出題範囲の一番はじめに「発音の仕方、音の区別、アクセント等」と書かれています。記事では、試験の手引きと辞典の資料から、モーラと音節のちがい、数え方でつまずく4か所、そしてアクセントとのつながりまでを整理します。
1. なぜ通訳の勉強でモーラが出てくるのか
手話通訳者全国統一試験は、社会福祉法人全国手話研修センターが実施団体とともにおこなう試験です。その手引きには、筆記試験(100分)の国語の出題範囲が7項目で示されていて、そのいちばん上が「発音の仕方、音の区別、アクセント等」です。残りの6つは、単語・文法・文字・表現法・文章読解・文学史。
単語や文法より前に、音の話が置かれています。モーラはこの項目の土台にあたる考え方で、「音の区別」も「アクセント」も、モーラという単位がないと説明ができません。
この試験は問題が公開されていないので、「出題範囲に含まれている」、出題されるとしたらどんな問題かを以下の範囲に沿って基礎を整理したものです。
2. モーラとは何か──辞典の定義から
まず、ことばの意味から確かめます。『デジタル大辞泉』はモーラを「韻律学または音韻論上の単位。1短音節に相当するとされる音の長さ」と説明しています(コトバンク)。もとはラテン語の詩の長さを測るための単位で、短い音節1つ分の時間を1モーラと呼びました。
この単位を日本語にあてはめたときの特徴は、「ん」「っ」「ー」がそれだけで1モーラとして数えられるところにあります。ブリタニカ国際大百科事典も、撥音・促音・長音がそれ自身で1モーラをなす点を日本語の特徴として挙げています。ここが日本語のモーラの核心で、このあと見る4つのつまずきも全部ここから出てきます。
日本語では、五十音図のかなそれぞれを1単位とし、そこに長音・促音・撥音を足した103種のモーラが標準的に数えられます(精選版日本国語大辞典)。
用語の整理:モーラ=拍。同じものです。試験問題や国語の教科書では「拍」、日本語教育や音声学の本では「モーラ」と書かれることが多い、という程度の違いです。「1モーラ」「1拍」はどちらも同じ長さを指します。
3. 音節とどう違うのか
では冒頭の「ニッポン」です。モーラで数えると4つ。音節で数えると2つ。
音節は「ひと息で出てくるひとまとまりの音」です。「ん」「っ」「ー」は、それ単独では発音を始められません。かならず前の音にくっついて、ひとかたまりになります。だから音節で見ると「ニッ」「ポン」の2つ。いっぽうモーラは「同じ長さの拍」なので、くっついている「ッ」も「ン」も、それぞれ1拍分の時間を占めるものとして独立に数えます。
手拍子を打ちながら「ニッポン」と言ってみると、体感できます。「ニ・ッ・ポ・ン」で4回打てる。「ッ」のところは音が出ていませんが、ちゃんと1回分の間があります。日本語を母語とする人がこの4拍を自然に打てるのは、モーラの感覚が身についているからです。
| 語 | モーラ | 数 | 音節 | 数 |
|---|---|---|---|---|
| ニッポン | ニ・ッ・ポ・ン | 4 | ニッ|ポン | 2 |
| コーヒー | コ・ー・ヒ・ー | 4 | コー|ヒー | 2 |
| シャッター | シャ・ッ・タ・ー | 4 | シャッ|ター | 2 |
| キャッシュ | キャ・ッ・シュ | 3 | キャッ|シュ | 2 |
| サッポロ | サ・ッ・ポ・ロ | 4 | サッ|ポ|ロ | 3 |
覚え方:音節の数は、モーラの数から特殊拍(ん・っ・ー)の数を引いたもの、と考えるとほぼ合います。「ニッポン」なら 4 − 2 = 2。「サッポロ」なら 4 − 1 = 3。
4. つまずくのは、この4か所
直音(「か」「さ」のような普通のかな)は、文字1つがそのまま1モーラです。迷いようがありません。数え間違いが起きるのは、次の4か所だけです。
① 撥音「ん」──1モーラ
「てんき」は テ・ン・キ で3モーラ。「ん」を前の「て」にくっつけて2つと数えないよう気をつけます。
② 促音「っ」──1モーラ
「きっぷ」は キ・ッ・プ で3モーラ。声が出ていない部分ですが、時間としては1拍分あります。ここを飛ばすのが、いちばん多い数え間違いです。
③ 長音「ー」──1モーラ
「コーヒー」は コ・ー・ヒ・ー で4モーラ。伸ばす音も1つと数えます。かなで「おかあさん」と書くときの「あ」、「とうきょう」と書くときの「う」も、同じように1モーラです。
④ 拗音「ゃ・ゅ・ょ」──ここだけ逆
①〜③が「文字が1つあれば1モーラ」という足し算だったのに対して、拗音だけは引き算になります。小さい「ゃ・ゅ・ょ」は前のかなと一体で、2文字あわせて1モーラ。「しゃしん」は シャ・シ・ン で3モーラ、4モーラではありません。
つまり、数え方の手順はこうなります。まず小さい「ゃ・ゅ・ょ」を前のかなとくっつけて1つにまとめる。そのうえで、残りを1文字=1つとして数える。この2手順だけで、「ん」「っ」「ー」もふくめて正しく数えられます。
小さいかなでも、外来語を書くときの「ファ」「ディ」「ウィ」などの「ァ・ィ・ェ・ォ」は、拗音と同じように前のかなと一体で1モーラです。「ファイル」は ファ・イ・ル で3モーラ。いっぽう、小さい「っ」だけは仲間ではなく、単独で1モーラを持つ特殊拍のほうに入ります。
5. アクセントの下がり目も、モーラで数える
出題範囲の1番目には「アクセント」も入っていました。ここでモーラがもう一度効いてきます。
NHK放送文化研究所が編んだ『NHK日本語発音アクセント新辞典』(2016年5月発行)は、それまでの高低の並びを書き表す方式をあらため、音の下がり目を「\」という記号で表す方式を採りました。下がり目がない語には最後に「 ̄」を付けます。国際交流基金の紹介記事は、この方式の利点を、下がり目があるかないか・あるとすればどこにあるかを見れば「単語を超えた長い単位で見た場合も、『アクセントがあれば下がる』という簡単な原則で説明できる」と紹介しています(国際交流基金 日本語教育通信)。
この「どこで下がるか」のどこを測る物差しが、モーラです。音節ではありません。「何モーラ目のあとで下がるか」で語のアクセントの型が決まります。特殊拍を数え落としたり、拗音を2つと数えたりすると、下がり目の位置がまるごとずれてしまいます。アクセントの問題でモーラの数え方が土台になる、というのはそういう意味です。
6. 「病院」と「美容院」を分けているもの
出題範囲の1番目には、もうひとつ「音の区別」がありました。これがいちばんはっきり出るのが、次の2語です。
かなで書けば「びょういん」と「びよういん」。違うのは「よ」が小さいか大きいかだけです。けれど小さい「ょ」は前の「び」と一体で1モーラ、大きい「よ」はそれ自身で1モーラ。この一点だけで、4モーラの語と5モーラの語という、別の長さの語になります。
このことは、読み取り通訳で日本語を声に出すときにも効いてきます。拗音の1モーラを直音の2モーラのように伸ばして言えば、聞き手には別の語として届きかねません。逆もまた同じです。モーラは、机の上の知識であると同時に、口に出すときの長さそのものでもあります。
7. 練習:数えてみましょう
次の語は何モーラでしょうか。手順は2つだけでした。小さい「ゃ・ゅ・ょ」を前とくっつけてから、残りを1文字ずつ数える。「ん」「っ」「ー」は忘れずに1つと数えます。最後の1問だけ、音節もあわせて答えてください。
① きょうしつ(教室)
4モーラ きょ・う・し・つ
② さっぽろ(札幌)
4モーラ さ・っ・ぽ・ろ
③ コーヒー
4モーラ コ・ー・ヒ・ー
④ キャッシュ
3モーラ キャ・ッ・シュ 拗音が2か所、促音が1か所。文字は5つですが3モーラです。
⑤ しゃしん(写真)
3モーラ しゃ・し・ん
⑥ びょういん(病院)
4モーラ びょ・う・い・ん
⑦ びよういん(美容院)
5モーラ び・よ・う・い・ん
⑧ ニュース
3モーラ ニュ・ー・ス
⑨ がっきゅう(学級)
4モーラ が・っ・きゅ・う
⑩ ひょうじゅん(標準)
4モーラ ひょ・う・じゅ・ん 文字は6つ、モーラは4つ。拗音が2か所あります。
⑪ きって(切手)── モーラと音節の両方を答えてください
3モーラ・2音節 モーラは き・っ・て の3つ。音節は きっ|て の2つ。促音を1つと数えるかどうかで答えが変わる、両方を一度に試せる語です。
ついでに:俳句や短歌の五・七・五も、音節ではなくモーラで数えます。「チョコレート」は チョ・コ・レ・ー・ト で5モーラなので、そのまま上の句に置けます。文字数だと6字で合いません。この感覚も、出題範囲の7番目にある文学史とゆるくつながっています。
8. まとめ
モーラ(拍)は、日本語の音を同じ長さの拍として数える単位。音節は、ひと息で出るひとまとまり。「ニッポン」は4モーラ・2音節で、どちらの答えも正しい。
「ん」「っ」「ー」の3つはそれ自身で1モーラ。ここを数え落とすのが、いちばん多い間違い。
小さい「ゃ・ゅ・ょ」は前のかなと一体で1モーラ。ここだけ、文字の数よりモーラの数が少なくなる。
アクセントの下がり目の位置も、同音異義語の「音の区別」も、この単位の上に成り立っている。だから統一試験の出題範囲は、単語や文法より前に音の項目を置いている。
最後にひとつ。ここでの整理のしかたは、あくまで一つの考え方です。音声学や日本語教育の分野には、より細かい区分や別の説明のしかたもあります。「講座ではこう習った」「この説明は違うのでは」──ご意見や別の整理のアイデアがあれば、ぜひお問い合わせフォームからお寄せください(記事名は自動で入力されます)。
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※ 収録しているのは過去問題ではなく、出題範囲にそって作成した練習問題です。
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主な参考資料
- 社会福祉法人全国手話研修センター「2025年度 手話通訳者全国統一試験の手引き」(実施:あいち聴覚障害者センター)(PDF)
- 社会福祉法人全国手話研修センター「2024(令和6)年度 手話通訳者全国統一試験の手引き」(実施:京都府・京都市/社会福祉法人京都聴覚言語障害者福祉協会)(PDF)
- 「モーラ」『デジタル大辞泉』/『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』/『精選版 日本国語大辞典』(コトバンク)──本文で原文を引いたのは『デジタル大辞泉』の定義1文のみ、他の2点は内容を参照しています。
- 国際交流基金 日本語教育通信 本ばこ『NHK日本語発音アクセント新辞典』(NHK放送文化研究所編、2016年5月)(jpf.go.jp)
※出題範囲の記述は、上記2年度の手引きで同じ文言であることを確認しています。試験問題そのものは公開されていないため、本文は範囲に沿った基礎の整理であり、出題内容の予想ではありません。