手話通訳士試験(手話通訳技能認定試験)の科目Ⅱ「聴覚障害者に関する基礎知識」では、難聴の原因がくり返し出ています。騒音性難聴、ストマイ難聴、先天性サイトメガロウイルス感染、加齢性難聴などです。手話通訳者全国統一試験の受験者が学習する養成カリキュラムも、最初の講義「聴覚障害の基礎知識」の目標に「聴覚障害の原因を理解する」と書いています。
この記事では、難聴の原因を「生まれつきか、生まれた後か」と「伝音難聴か、感音難聴か」の2つで分けて整理します。伝音難聴と感音難聴の見分け方はオージオグラムの記事に、新生児聴覚検査は聴力検査の記事に書いています。
試験で押さえる要点
- 先天性の難聴は出生1,000人に1〜2人。その約6割が遺伝性で、いちばん多い原因遺伝子はGJB2
- 先天性CMV感染は、妊娠中にお母さんから赤ちゃんにうつるもの。診断には生後3週間以内の尿を使う
- ムンプス難聴は多くが片耳で、高度の難聴が残りやすい
- ストマイ難聴は内耳の有毛細胞が傷む感音難聴。高い音から聞こえにくくなる
- 騒音性難聴は4000Hz付近から下がり、いったん失われた聴力は戻りにくい
- 加齢性難聴は高い音から下がり、両耳に起こることが多い
- 中耳炎・耳硬化症は伝音難聴。手術で改善することもある
1. 試験での問われ方
手話通訳士試験(手話通訳技能認定試験)
科目Ⅱ「聴覚障害者に関する基礎知識」で、公開されている第35回(2024年度)から第37回(2026年度)では、難聴の原因がこう出ています。
- 伝音難聴を引き起こす疾患
第35回 - ストマイ難聴
第35回 - 先天性サイトメガロウイルス感染
第36回 - 難聴の子が生まれる割合
第36回 - 加齢性難聴
第37回
第34回以前にも、感音難聴・伝音難聴の原因、老人性難聴、突発性難聴、騒音性難聴が出ています。
第35〜37回は聴力障害者情報文化センターが公開している問題で確かめました。第34回以前の出題は、日本手話通訳士協会『手話通訳技能認定試験 模範解答集』巻末の出題内容一覧によります。問題文は載せていません。
手話通訳者全国統一試験
問題は公開されていません。受験者が学習する手話奉仕員の養成カリキュラム(厚生労働省 令和5年6月26日通知)は、入門課程の講義「聴覚障害の基礎知識」の目標をこう書いています。
- 耳の仕組みや聴覚障害の原因を理解するとともに、聴覚障害者のコミュニケーション方法を理解する。
2. 難聴別の原因
この記事で取り上げる原因は図1のように並びます。
両方の性質をもつ混合性難聴もあり、原因がはっきりしないものもあります。
- 外耳道閉鎖など、音の通り道の形の異常
- 遺伝性(GJB2など)
- 症候群性(ペンドレッド・アッシャー・ワーデンブルグ)
- 先天性CMV感染
- 先天性風疹症候群
- 滲出性中耳炎
- 慢性中耳炎
- 耳硬化症
- 耳あかの詰まり
- ムンプス難聴
- 薬剤性(ストマイ難聴)
- 突発性難聴
- 騒音性難聴
- 加齢性難聴
3. 生まれつきの難聴
両耳に難聴がある子は、出生1,000人に1〜2人の割合で生まれるとされています。先天性の病気の中でも多いものの一つです。
遺伝性の難聴感音
先天性難聴の約6割は遺伝性です。原因となる遺伝子は120以上見つかっていて、いちばん多いのがGJB2という遺伝子です。先天性難聴の約2割にGJB2の変異が見られます。2012年度からは、先天性難聴の遺伝学的検査が保険で受けられるようになりました。
難聴のほかに別の症状を伴うものを症候群性難聴といいます。名前がよく挙がるものは以下の3つです。
- 伴うもの
- 甲状腺腫
- 耳
- 前庭水管拡大を伴う。原因遺伝子はSLC26A4
- 伴うもの
- 網膜色素変性症(目の病気)
- 耳
- 感音難聴。聞こえと見え方の両方に障害が出る
- 伴うもの
- 色素異常症
- 耳
- 聴覚障害
先天性サイトメガロウイルス(CMV)感染感音
妊娠中にお母さんがサイトメガロウイルスに感染し、おなかの赤ちゃんにうつると、生まれた子に難聴や小頭症などが出ることがあります。日本では300人に1人の割合で感染した赤ちゃんが生まれ、そのうち約3割に聴覚障害などが出るおそれがあるとされています。
診断には生後3週間以内の尿を使います。2018年1月から、先天性CMV感染が疑われる生後3週間以内の新生児の尿の検査が保険で受けられるようになりました。新生児聴覚検査でリファーになった子は、この期間にCMVの検査を受けることが勧められています(聴力検査の記事の図2)。2023年3月には、症状のある先天性CMV感染症の治療薬としてバルガンシクロビル(商品名バリキサ)が承認されています。
先天性風疹症候群感音
風しんへの免疫が十分でない女性が妊娠20週頃までに感染すると、生まれた子に先天性心疾患・難聴・白内障などが出ることがあります。これを先天性風疹症候群(CRS)といいます。
音の通り道の形の異常伝音
外耳道が閉じている(外耳道閉鎖)、外耳道が高度に狭い、耳小骨のつながりが切れているなど、音の通り道に異常があると伝音難聴になります。
4. 生まれた後に起こる難聴
中耳炎・耳硬化症伝音
滲出性中耳炎、慢性中耳炎で鼓膜に穴があいたもの(鼓膜穿孔)、耳硬化症などは、外耳や中耳の障害による伝音難聴です。手術で改善することもあります。耳あかが詰まって聞こえにくくなることもあります。滲出性中耳炎を見つける検査がティンパノメトリーです(聴力検査の記事)。
ムンプス難聴感音
おたふくかぜ(流行性耳下腺炎、ムンプス)の合併症の一つが難聴です。日本耳鼻咽喉科学会の全国調査では、2015〜2016年の2年間で少なくとも348人がムンプス難聴になりました。初診のとき片耳の難聴が317人、両耳が15人で、274人(約8割)に高度以上の難聴が残っていました。
片耳がまったく聞こえない「一側ろう」の、生まれた後の原因の代表がムンプス難聴です。おたふくかぜのワクチンは、日本では定期接種ではなく任意接種です。
薬剤性難聴(ストマイ難聴)感音
抗菌薬のストレプトマイシンなど、アミノグリコシド系の薬で起こる難聴が「ストマイ難聴」と呼ばれてきました。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 難聴」によると、傷むのは内耳のコルチ器の有毛細胞で、特に外有毛細胞が傷みやすく、内耳性の感音難聴になります。初めは4000〜8000Hzの高い音だけが下がることが多いとされています。
ミトコンドリア遺伝子にm.1555A>Gなどの変異がある人は、この薬への感受性が高く、少ない量でも難聴になることがあります。同じマニュアルは、問診で「母系に難聴者がいないか」を確かめるよう挙げています。抗がん剤の白金製剤やループ利尿剤なども、難聴を起こす薬としてマニュアルに並んでいます。
突発性難聴感音
ある日突然、片方の耳(ごくまれに両耳)の聞こえが悪くなる病気です。血流障害やウイルス感染が考えられていますが、原因はまだ分かっていません。聴力を回復させるには、早く治療を始めることが大切とされています。
騒音性難聴感音
大きな音を長い間聞き続けると、内耳の有毛細胞が傷んで難聴になります。4000Hz付近の比較的高い音から聞こえにくくなり、いったん失われた聴力は戻りにくく、治療薬はまだありません。職場の騒音については、厚生労働省が「騒音障害防止のためのガイドライン」を令和5年4月20日に改訂しています。
加齢性難聴感音
年齢とともに聞こえが落ちるもので、試験では「老人性難聴」の名前でも出ています。一般に高い音から下がり始め、高齢者の難聴は両耳に起こることが多いとされています。音の大きさだけでなく、ことばを聞き分ける力(語音弁別能)にも影響します。
5. 試験の前に見直す点
- 伝音 外耳道閉鎖・中耳炎・耳硬化症・耳あかの詰まり
- 感音 遺伝性・症候群性・先天性CMV・先天性風疹症候群・ムンプス・薬剤性・突発性・騒音性・加齢性
- 先天性CMVと先天性風疹症候群は、妊娠中の感染による生まれつきの難聴。ムンプス難聴は生まれた後
- 高い音から下がるもの:薬剤性(4000〜8000Hz)、騒音性(4000Hz付近)、加齢性
- 片耳に多いもの:ムンプス難聴、突発性難聴
- 数字:出生1,000人に1〜2人、遺伝性は約6割、GJB2は約2割、CMVは300人に1人、CMVの尿検査は生後3週間以内
おわりに
WHOは、子どもの難聴のほぼ60%は予防接種などで防げるとしています。風しんやおたふくかぜのワクチン、職場の騒音対策のように、原因が分かれば防げるものもあります。
聞こえにくさを疑似的に体験したいときは、まなびパレットの教材も使ってみてください。
みみのせかい ── 耳のしくみ・オージオグラム・難聴の種類を学ぶ きこえシミュレーター ── 難聴の聞こえ方を体験するここでの整理は一つの考え方です。医学の説明は、資料や時期によって数字や言い方が違うことがあります。「講座ではこう習った」「この説明は違うのでは」というご意見があれば、お問い合わせフォームからお寄せください(記事名は自動で入力されます)。
主な参考資料
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会『小児難聴診療の手引き』(PDF)
- 厚生労働省・文部科学省「難聴児の早期発見・早期療育推進のための基本方針」(PDF)
- 野口佳裕「遺伝性難聴入門」Audiology Japan 65巻3号, 2022年(J-STAGE)
- 信州大学医学部 耳鼻咽喉科頭頸部外科学教室「難聴の遺伝学的検査」(shinshu-jibi.jp)
- 岡本康秀ほか「両側前庭水管拡大症の確実例とボーダーライン例のSLC26A4遺伝子変異および臨床所見の特徴」Audiology Japan 53巻2号, 2010年(J-STAGE)
- 難病情報センター「アッシャー症候群(指定難病303)」(nanbyou.or.jp)
- 厚生労働科学研究「ワーデンブルグ症候群の診断基準および重症度分類策定に関する調査研究」平成30年度(mhlw-grants.niph.go.jp)
- 国立健康危機管理研究機構「サイトメガロウイルス感染症」(id-info.jihs.go.jp)
- 兵庫県「先天性サイトメガロウイルス感染症」(web.pref.hyogo.lg.jp)
- 中央社会保険医療協議会「臨床検査の保険適用について」平成29年12月22日(PDF)
- 医薬品医療機器総合機構「バリキサ錠」承認情報(pmda.go.jp)
- 厚生労働省「風しんについて」(mhlw.go.jp)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「難聴について」(jibika.or.jp)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「難聴」(kennet.mhlw.go.jp)
- 日本耳鼻咽喉科学会「2015-2016年にかけて発症したムンプス難聴の大規模全国調査」(厚生労働省 掲載のPDF)
- 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「正しく知っておきたい『一側ろう』のこと」(jibika.or.jp)
- 日本小児科学会「おたふくかぜ含有ワクチンの早期定期接種化および既承認ワクチンの活用に関する要望書」令和8年6月4日(厚生労働省 掲載のPDF)
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 難聴(アミノグリコシド系抗菌薬、白金製剤、サリチル酸剤、ループ利尿剤による)」平成22年3月(令和4年2月改定)(PDF)
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「突発性難聴について」(kennet.mhlw.go.jp)
- 厚生労働省 広報誌「厚生労働」2024年11月号「『聞こえる』を大切にする」(mhlw.go.jp)
- 厚生労働省「騒音障害防止のためのガイドラインの改訂について」令和5年4月20日 基発0420第2号(PDF)
- 国立長寿医療研究センター「高齢者のめまいと難聴」(ncgg.go.jp)、「補聴器は何歳から必要?」(ncgg.go.jp)
- WHO "WHO: 1 in 4 people projected to have hearing problems by 2050" 2021年3月2日(who.int)
- 厚生労働省「手話奉仕員及び手話通訳者の養成カリキュラム等について」令和5年6月26日 障企自発0626第1号(PDF)
- 日本手話通訳士協会『手話通訳技能認定試験 模範解答集』第29〜36回 巻末「各科目 過去5年間の出題内容一覧」
- 社会福祉法人聴力障害者情報文化センター「過去問題」第35〜37回 学科試験(jyoubun-center.or.jp)