高額療養費は、ひと月の医療費の窓口負担が上限額を超えたとき、超えた分があとで戻ってくる制度です。この上限額の引き上げが2025年に予定され、そして見送られました。ニュースで覚えているのはここまでという方が多いと思います。ただ話はそこで終わっていませんでした。

先に結論です。

  • 2025年8月に予定されていた引き上げは実際に見送られました。ただし制度は作り直され、2026年8月1日から施行されています
  • 診療分でいうと2026年8月診療分から新しい額になります
  • 70歳未満でいちばん人数が多い区分ウ(標準報酬月額28万〜50万円)は、80,100円+(総医療費−267,000円)×1%から、85,800円+(総医療費−286,000円)×1%へ
  • 区分エは57,600円から61,500円へ、区分オ(住民税非課税)は35,400円から36,900円
  • 多数回該当の額は据え置かれました。4回目からは44,400円などのまま
  • 年間上限が新設されました。8月1日から翌年7月31日までで、区分ウ・エなら53万円
  • 2027年8月からは所得区分がさらに細かくなり、年収200万円未満の多数回該当が44,400円から34,500円へ下がります。政令は公布済みです
  • 差額ベッド代・食費・先進医療は対象外です
  • マイナ保険証を使えば限度額適用認定証はいりません
  • 申請できる期間は診療を受けた月の翌月初日から2年です

以下、それぞれを厚生労働省の資料と条文でたどります。

この記事は法令と公的資料の内容を整理したものです。個別の給付額の判断は保険者の権限に属します。金額は2026年8月14日時点で確認した現行の条文および厚生労働省の資料によります。加入している健康保険によって手続きが異なる場合があるので、実際の申請は保険者にご確認ください。

1. 見送られたあとに何が起きたのか

2025年(令和7年)3月7日、当時の石破総理が実施の見合わせを表明しました。厚生労働省の専門委員会の資料に、発言がそのまま収められています。

本年8月に予定されております定率改定を含めて、見直し全体について、その実施を見合わせるという決断をいたしました

第1回 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会 資料2(令和7年5月26日)

同じ資料には、患者団体から「それでも受診抑制につながるおそれがある」との懸念が示されたこと、検討の進め方が「丁寧さを欠いた」と指摘されたことが理由として書かれています。そのうえで「本年秋までに、改めて方針を検討し、決定する」とされました。

そこから「高額療養費制度の在り方に関する専門委員会」が2025年5月26日から12月25日まで9回開かれています。その結果が法律と政令になりました。

2025年の見送りから2027年の次の見直しまでの流れを示した年表 2025年3月 引き上げ 見合わせ 2025年5〜12月 専門委員会 9回 2026年6月 法律・政令 公布 2026年8月1日 施行 いまここ 2027年8月 次の 見直し 2027年8月の政令は公布済みで、施行を待っている状態
図1見送りのあとに制度は作り直された(厚生労働省の資料と法令の公布・施行日をもとに作成)

根拠になっているのは次の3つです。

  • 健康保険法等の一部を改正する法律(令和8年法律第31号)2026年5月29日成立・6月5日公布
  • 健康保険法施行令等の一部を改正する政令(令和8年政令第219号)2026年6月25日公布・2026年8月1日施行
  • (令和8年政令第240号)2026年7月29日公布・2027年8月1日施行(未施行)

「見送られた」で記憶が止まっていると、いまの額を取り違えます。見送られたのは2025年8月に予定されていた分です。2026年8月からの分は別に作られ、すでに施行されています。

2. いまの上限額(70歳未満)

2026年8月診療分からの額です。左が新しい額で、右が7月診療分までの額になります。

区分(標準報酬月額)2026年8月〜2026年7月まで多数回該当
ア 83万円以上270,300円+(総医療費−901,000円)×1%252,600円+(総医療費−842,000円)×1%140,100円
イ 53万〜79万円179,100円+(総医療費−597,000円)×1%167,400円+(総医療費−558,000円)×1%93,000円
ウ 28万〜50万円85,800円+(総医療費−286,000円)×1%80,100円+(総医療費−267,000円)×1%44,400円
エ 26万円以下61,500円57,600円44,400円
オ 住民税非課税36,900円35,400円24,600円

この数字は厚生労働省の資料だけでなく、健康保険法施行令第42条の条文そのもので確認できます。条文には「八万五千八百円」「二十八万六千円」「二十七万三百円」「六万千五百円」「三万六千九百円」といった漢数字が並んでいます。

上げ幅は区分によって違います。区分ウが5,700円、区分オが1,500円です。所得の低い区分ほど上げ幅を抑える形になっています。

3. 70歳以上の上限額

70歳以上は外来(個人ごと)と、外来+入院(世帯ごと)で分かれます。2026年8月から2027年7月までの額です。

区分外来(個人ごと)外来+入院(世帯ごと)多数回該当
現役並みⅢ(標報83万円以上)270,300円+(総医療費−901,000円)×1%140,100円
現役並みⅡ(53万〜79万円)179,100円+(総医療費−597,000円)×1%93,000円
現役並みⅠ(28万〜50万円)85,800円+(総医療費−286,000円)×1%44,400円
一般(26万円以下)22,000円61,500円44,400円
低所得者Ⅱ11,000円25,700円24,600円
低所得者Ⅰ8,000円15,700円

4. 年間上限が新しくできた

今回いちばん大きい変更はここだと思われます。健康保険法施行令に第41条の2「年間の高額療養費の支給要件及び支給額」という条文が新しく置かれました。計算の期間は毎年8月1日から翌年7月31日までです。

月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費については、保険者から還付を受けることができます

厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」
区分年間上限(8月〜翌年7月)
ア(83万円以上)168万円
イ(53万〜79万円)111万円
ウ(28万〜50万円)53万円
エ(26万円以下)53万円(標準報酬月額15万円以下は41万円)
オ(住民税非課税)29万円

70歳以上には外来だけの年間上限もあります。一般区分で216,000円、住民税非課税で96,000円です。この2つも施行令第42条第10項に条文として置かれています。

最初の対象期間は2026年8月1日から2027年7月31日までです。全国健康保険協会は、月ごとの負担を上げるかわりに多数回該当を維持し、年間上限を設けることで「長期にわたり治療が必要な方のセーフティネット機能の強化」を図ると説明しています。

年間上限に達したあとの還付を、いつからどう申請するのかについては、今回確認した資料の中に記載を見つけられませんでした。加入している保険者の案内を待つことになりそうです。

5. 多数回該当は据え置かれた

多数回該当は、直近12か月に3回以上上限額に達したとき、4回目から上限が下がる仕組みです。

過去12か月以内に3回以上、上限額に達した場合は、4回目から「多数回」該当となり、上限額が下がります

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

今回の見直しでこの額は上がっていません。専門委員会の「基本的な考え方」に「多数回該当の限度額については現行水準を維持するべき」と書かれています。ひと月の上限は上がり、繰り返しかかる人の上限は据え置かれた、という構図です。

同じ保険者での療養に適用されます。保険者が変わると通算されません。転職や退職で健康保険が変わったときは、そこで数え直しになります。

6. 法律に一文が加わった

今回の改正では、健康保険法の条文そのものにも手が入りました。第115条第2項です。

高額療養費の支給要件、支給額その他高額療養費の支給に関して必要な事項は、療養に必要な費用の負担の家計、とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者の家計に与える影響及び療養に要した費用の額を考慮して、政令で定める。

健康保険法 第115条第2項(太字部分が今回の追加)

国民健康保険法第57条の2第2項にも同じ文言が入っています。年間上限の新設と多数回該当の据え置きは、この一文と対応する形になっています。

7. 2027年8月にもう一度変わる

次の見直しは政令としてすでに公布されています(令和8年政令第240号・2026年7月29日公布)。施行は2027年8月1日です。厚生労働省のページには次のように書かれています。

令和9年8月から:所得区分を細分化年収200万円未満の多数回該当を25%引き下げ

厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて」

専門委員会の資料によれば、住民税非課税の区分を除く各所得区分を3つずつに細かく分ける方向です。多数回該当については、年収200万円未満の層で44,400円から34,500円へ下がるとされています。

2027年8月からの各区分の月額上限は、この記事では書きません。厚生労働省の比較表を確認しましたが、区分ごとの金額を確実に読み取れませんでした。確定した数字が公表されたときに追記します。

8. 対象にならないものと、手続き

高額療養費に含まれないもの

「食費」・「居住費」、患者の希望によってサービスを受ける「差額ベッド代」・「先進医療にかかる費用」等は、高額療養費の支給の対象とはされていません

厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」

入院費用の見積もりを立てるとき、ここを入れ忘れると実際の支払いと合わなくなります。

ひと月の数え方と、合算のしかた

「ひと月」は暦の月です。月をまたぐ入院では、それぞれの月で別に計算します。医科と歯科、入院と外来ではレセプトが分かれます。合算できる条件は年齢で違います。

  • 69歳以下:1つの医療機関の窓口負担が21,000円以上のものだけ合算できます
  • 70歳以上:窓口負担の額にかかわらず合算できます

調剤薬局で払った分は、処方元の医療機関に合算します。

窓口での立替えをなくす

限度額適用認定証を出しておくと、窓口の支払いが上限額までで済みます。ただし今はもう1つ道があります。

マイナンバーカードを健康保険証として利用すれば、「限度額適用認定証」がなくても、公的医療保険が適用される診療に対しては限度額を超える分を支払う必要がありません。

厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」

オンライン資格確認を導入していない医療機関にかかる場合や、住民税非課税で減額認定証が必要な場合は、これまでどおり申請が要ります。

あとから申請するときの期限

健康保険法第193条により、保険給付を受ける権利は2年で時効になります。起算点について厚生労働省は「診療を受けた月の翌月の初日から2年」と説明しています。窓口で全額払ってしまったあとでも、この期間内なら申請できます。

おわりに

この制度でいちばん誤解されやすいのは「引き上げは見送られた」で情報が止まっているところだと思います。見送られたのは2025年8月に予定されていた分でした。そのあと専門委員会が9回開かれ、別の形に作り直されたものが2026年8月から動いています。

変わったのはひと月の上限だけではありません。多数回該当は据え置かれ、年間上限という枠が新しく足されました。法律の条文にも「とりわけ長期にわたって継続的に療養を受ける者」という一文が入っています。ひと月あたりは上がり、長く続く人の側に別の受け止めが用意された、という形になっています。

ここに書いたのは一つの考え方です。政令は改正されますし、加入している保険者によって手続きは異なります。お気づきの点がありましたら、お問い合わせフォームからお寄せいただけるとうれしいです。

出典

  • 健康保険法(大正11年法律第70号)第115条・第115条の2・第193条 e-Gov法令検索
  • 国民健康保険法(昭和33年法律第192号)第57条の2 e-Gov法令検索
  • 健康保険法施行令(大正15年勅令第243号)第41条・第41条の2・第42条・第43条 e-Gov法令検索
  • 厚生労働省「高額療養費制度の見直しについて(令和8年8月診療分から)」 PDF
  • 厚生労働省「高額療養費制度を利用される皆さまへ」 掲載ページ
  • 厚生労働省「医療保険制度改正法が成立しました」 掲載ページ法律の概要 PDF
  • 厚生労働省 第1回 高額療養費制度の在り方に関する専門委員会 資料2 PDF委員会の開催一覧
  • 厚生労働省「高額療養費制度の見直しの基本的な考え方(案)」 PDF
  • 厚生労働省 第9回専門委員会・第209回医療保険部会 資料「高額療養費制度の見直しについて」 PDF
  • 厚生労働省「マイナンバーカードの健康保険証利用のメリット」 掲載ページ
  • 全国健康保険協会「高額療養費」 ページ/「限度額適用認定証」 ページ
  • 全国健康保険協会「【制度改正】令和8年8月から高額療養費制度が見直されます」 ページ