自転車は原則として車道の左側を走ります。すぐ横を車やトラックが通り過ぎていくので、その音が耳につくことがあります。走行する車の音を減らして走れないだろうか、と考えたことがあります。それを調べた結果をまとめます。

先に結論です。

  • 「自転車でイヤホンを使ってはいけない」と書いた全国一律の法律は存在しません
  • 各県の条文が禁じているのは機器ではなく、交通に関する音や声が聞こえない状態で運転すること
  • つまりイヤホンを着けていること自体では決まりません。聞こえない状態だったと判断されれば違反になり、聞こえていれば機器の種類は問われません
  • その違反(公安委員会遵守事項違反)は2026年4月から青切符の対象です。反則金5,000円・16歳以上が対象で、傘さし運転と同じ額です
  • 警察庁は「外形だけで画一的に判断するな」と現場に通達を出しています。片耳・低音量・オープンイヤー型・骨伝導型を名指しで挙げています
  • 補聴器はただし書きで明文除外している県とそうでない県があります。無い県でも条文の中身に当たらないと読めます
  • 人工内耳は今回確認した条文にひとつも出てきませんでした
  • 耳栓については公的な見解を見つけることができませんでした

以下、それぞれの根拠を一次資料でたどります。

禁止の実体は道路交通法が各都道府県に委ねた先にあります。なので条文の書きぶりが県ごとに違い、補聴器の扱いも県ごとに違います。

この記事は法令と公的資料の内容を整理したものです。個別の事案が違反にあたるかどうかの判断は警察の権限に属します。条文は2026年8月11日時点で各都道府県の例規集等から確認したものを引用しています。

1. 「イヤホン禁止」という法律は無い

道路交通法の条文を通して読んでも、イヤホンやヘッドホンという語は出てきません。出てくるのは次の一文です。

第七十一条 車両等の運転者は、次に掲げる事項を守らなければならない。
六 前各号に掲げるもののほか、道路又は交通の状況により、公安委員会が道路における危険を防止し、その他交通の安全を図るため必要と認めて定めた事項 道路交通法(昭和35年法律第105号)第71条第6号

「公安委員会が…定めた事項」。中身が書かれていません。何を守るべきかを法律が各都道府県の公安委員会に委ねているのがこの条文です。イヤホンの規制はここから各都道府県の規則(道路交通法施行細則、道路交通規則などと呼ばれます)に降りていきます。これは二階建ての構造になっています。

この構造は同じ「ながら運転」でも扱いが違います。スマートフォンのほうは、法律が自転車をはっきり指しています。

五の五 自動車、原動機付自転車又は自転車(以下この号において「自動車等」という。)を運転する場合においては、当該自動車等が停止しているときを除き、携帯電話用装置、自動車電話用装置その他の無線通話装置…を通話…のために使用し、又は当該自動車等に取り付けられ若しくは持ち込まれた画像表示用装置…に表示された画像を注視しないこと。 同法 第71条第5号の5

スマホは法律が全国一律で名指ししている。イヤホンは名指しがなく、県ごとの規則に落ちている。同じ「ながら」でも法的な階層がまるで違います。

なお第71条第6号に違反した場合の罰則は、同法第120条第1項第10号により5万円以下の罰金です。

2. 条文が禁じているのは、機器ではなく耳の状態

各県の条文を並べてみると、書きぶりは違いますが文の骨格が共通しています。たとえば東京都の規則です。

高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。 東京都道路交通規則 第8条第5号

禁じられているのは「イヤホーン等を使用すること」ではありません。「聞こえないような状態で運転しないこと」です。イヤホンやカーラジオは、その状態を生む例として挙がっているにすぎません。

これが分かると話がずいぶん整理されます。イヤホンを着けているかどうかを問題にはしていません。問われているのは、交通に関する音や声が聞こえているかどうかのほうです。

そして「聞こえない状態」を条文がどう表現するかは県によって違います。

3. 同じことを書いているのに県ごとに文が違う

実際に確認できた条文を並べます。原文のまま引きます。

都道府県条文(抜粋・原文)
東京都高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。(ただし書あり)
北海道高音でカーラジオ等を聴き、又はイヤホン若しくはヘッドホンを使用して音楽を聴くなど安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で、車両を運転しないこと。(ただし書あり)
愛知県大きな音量で、カーラジオ等を聞き、又はイヤホン等を使用して音楽等を聞くなど安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。
京都府大きな音量でカーラジオ等を聞き、又はイヤホン、ヘッドホン等を使用しているため、安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような状態で車両等を運転しないこと。(ただし書あり)
宮城県高音量でカーラジオ、カーステレオ等を聞き、ヘッドホン又はイヤホンを使用して音楽を聞くなど、安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。(ただし書あり)
愛媛県高音でカーラジオ等を聞き、又はイヤホーン等を使用してラジオを聞く等安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両等を運転しないこと。(ただし書あり)
埼玉県高音でカーラジオ等を聴く、イヤホーン等を使用してラジオ等を聴くなど安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で車両を運転しないこと。
大阪府警音器、緊急自動車のサイレン、警察官の指示等安全な運転に必要な交通に関する音又は声を聞くことができないような音量で、カーオーディオ、ヘッドホンステレオ等を使用して音楽等を聴きながら車両を運転しないこと。
兵庫県安全な運転に必要な音声を聞き取ることが不可能又は著しく困難な程度の音量で、音楽等を聴取しないこと。

※ 各都道府県の道路交通法施行細則・道路交通規則より。ただし書の内容は本文で扱います。

読み比べると、違いは2つに整理できます。

機器を名指しするかどうか

多くの県は「イヤホン」または「イヤホーン」を条文に書いています。表記も「イヤホン」と「イヤホーン」に分かれます。

一方で、大阪府の条文には「イヤホン」という語がありません。書かれているのは「カーオーディオ、ヘッドホンステレオ等」です。そして兵庫県は機器をひとつも名指ししていません。「安全な運転に必要な音声を聞き取ることが不可能又は著しく困難な程度の音量で、音楽等を聴取しないこと」。これだけです。

音量を要件に組み込むかどうか

愛知県は「大きな音量で」、京都府も「大きな音量で」、宮城県は「高音量で」と書きます。これらの県では音量の大きさが要件の一部になっているように読めます。

これに対して東京都・北海道・埼玉県・愛媛県は「高音で」です。「大音量」という語はありません。音量の大小に関係なく、「聞こえないような状態」であることが要件になっていると読める書きぶりです。

大阪府と兵庫県は音量そのものを基準の中心に据えています。兵庫県の「不可能又は著しく困難な程度の音量」という言い回しは、今回確認した中では独特のものでした。

もうひとつ、県によって分かれるものがあります。補聴器のただし書きです。これは5章で扱います。

4. 警察庁は「外形だけで判断するな」と現場に伝えている

オープンイヤー型のイヤホンや骨伝導ヘッドホンはどうなるのか。片耳ならいいのか。この問いには公的な答えがあります。警察庁が2023年(令和5年)7月25日に出した通達です。

イヤホン等を使用して安全な運転に必要な音又は声が聞こえない状態で自転車を運転する行為を禁止することである 警察庁「イヤホン又はヘッドホンを使用した自転車利用者に対する交通指導取締り上の留意事項等について(通達)」令和5年7月25日・丁交指発第86号ほか

そのうえで同じ通達がオープンイヤー型と骨伝導型を名指しで扱っています。

最近普及しているオープンイヤー型イヤホンや骨伝導型イヤホンについては、装着時に利用者の耳を完全には塞がず、その性能や音量等によってはこれを使用中にも周囲の音又は声を聞くことが可能である 同通達

片耳についても同様の書き方をしています。

イヤホン等を片耳のみに装着している場合や、両耳に装着している場合であっても極めて低い音量で使用している場合等には、周囲の音又は声が聞こえている可能性がある 同通達

ここで気をつけたいのは、通達が「片耳なら適法」とは書いていないことです。書いてあるのは「聞こえている可能性がある」まで。なので結論はこうなります。

イヤホン等の使用という外形的事実のみに着目して画一的に違反の成否を判断するのではなく、個別具体の事実関係に即して判断すること。──これが警察庁が現場に求めている取締りの方法です。

装着しているかどうかではなく、聞こえているかどうかを見る。条文の構造と通達の指示が同じことを指しています。

5. 補聴器はただし書きのある県とない県がある

補聴器を着けて自転車に乗っている人が、イヤホンと見間違えられて指導を受ける。そういう場面を想像したとき、法的な足場がどこにあるのかを確かめておきたくなります。

足場は二段構えで用意できます。

ひとつめ:明文のただし書きがある県

東京都・北海道・京都府・愛媛県の条文には、ただし書きで補聴器が正面から除外されています。

ただし、難聴者が補聴器を使用する場合又は公共目的を遂行する者が当該目的のための指令を受信する場合にイヤホーン等を使用するときは、この限りでない。 東京都道路交通規則 第8条第5号 ただし書

愛媛県は同じ型ですが、除外される二つめの主体が「公務員が公務のための指令を受信する場合」となっており、細部が違います。北海道と京都府にも補聴器のただし書きがあります。

ふたつめ:明文がない県でも条文の中身に当たらないと読める

一方、宮城県のただし書きには「公共目的を遂行する者」しか書かれておらず、補聴器の一文がありません。東京都とほとんど同じ型の条文なのに、そこだけが違います。愛知県・大阪府・兵庫県にも補聴器のただし書きは見当たりませんでした。

ただ、ただし書きが無いことは「補聴器が禁止されている」ことを意味しません。禁止されている行為の中身を見ると、そもそも補聴器が当てはまらないように読めるからです。

  • 愛知県・宮城県は「音又は声が聞こえないような状態で運転しないこと」──補聴器は聞こえを改善する機器です
  • 大阪府は「音楽等を聴きながら運転しないこと」──補聴器は音楽を聴く機器ではありません
  • 兵庫県は「音楽等を聴取しないこと」──同じく、聴取の対象が音楽等です

ただし書きは、疑いを持たれないように念のため置かれた確認的な規定と読むのが自然だと思われます。もっとも、これは条文からの読み方であって、公的な解釈が示されているわけではありません。

そして実務的には、条文の解釈より前に効く材料があります。さきほど紹介した通達です。外形だけを見て画一的に判断してはならない、と警察庁が現場に指示している。補聴器を装用しているところを外形だけで止められた場合に、まず立てる足場はここになります。

人工内耳は条文に出てこない

今回確認した条文の中に「人工内耳」という語はひとつもありませんでした。ただし書きに書かれているのは「難聴者が補聴器を使用する場合」です。

とはいえ、ただし書きが無い県について整理したのと同じ読み方ができます。禁止されているのは「音又は声が聞こえないような状態」や「音楽等の聴取」であって、聞こえを補うための機器はその中身に当たらないと読めます。

人工内耳のサウンドプロセッサは耳のうしろや頭部に着けるので、外から見えます。外形だけを見れば機器を装着しているように映る。だからこそ、外形で判断しないという通達の指示が効いてくる場面だと思われます。

6. 耳栓には公式の答えが見つからなかった

最初の疑問に戻ります。耳栓はどうなのか。

調べた範囲では、耳栓について警察・公安委員会・自治体が示した公式の見解を見つけることはできませんでした。警察庁の通達も自転車ルールブックも対象を一貫して「イヤホン等」「音楽等」と書いています。耳栓に触れた記述はありませんでした。

そのうえで、条文の型によって射程が変わりうる、というところまでは言えそうです。

東京都・北海道・埼玉県・愛媛県のような型──「〜安全な運転に必要な交通に関する音又は声が聞こえないような状態で運転しないこと」。「等」で受ける包括的な状態規定なので、交通の音が聞こえなくなる耳栓も、文言のうえでは射程に入りうる書き方に見えます。

大阪府・兵庫県のような型──「音楽等を聴きながら」「音楽等を聴取しないこと」。音楽等の聴取が要件です。耳栓は音を出さないので、文言のうえでは当たりにくいと読む余地があります。

ただし、どちらの型であっても、周囲の音が聞こえない状態で走ることは道路交通法第70条の安全運転義務の側から評価される余地が別に残ります。第70条は「他人に危害を及ぼさないような速度と方法で運転しなければならない」という一般的な条文で、個別の規則に当たらない危険な運転を受け止める役割を持っています。

結局のところ、耳栓を使うかどうかを考えるときの問いは、条文が違反かどうかを問う前に、後ろから来る車の音が聞こえているかという一点に戻ってくるのだと思います。減衰量の小さい耳栓もあれば、風切り音だけを抑える設計のものもあります。どこまで聞こえているかは、実際に着けて走ってみないと分かりません。

7. 2026年4月から青切符の対象になっている

2026年(令和8年)4月1日から自転車にも交通反則通告制度が適用されています。16歳以上の運転者が対象です。

ここまで見てきた第71条第6号違反、つまり「公安委員会遵守事項違反」は、自転車が対象となる反則行為の一覧に入っています。反則金は5,000円で、傘さし運転と同じ額です。

気をつけたいのは、これが「イヤホンを着けていたら5,000円」という意味ではないことです。自治体の案内では「イヤホン等の使用」と要約して書かれることが多いのですが、条文が問うているのは、これまで見てきたとおり音や声が聞こえない状態だったかどうかです。その状態にあたると判断された場合の反則金が5,000円、という順番になります。

5,000円公安委員会遵守事項違反
12,000円携帯電話使用等(保持)
16歳反則通告制度の対象年齢

参考までに、同じ一覧の他の額は、信号無視6,000円(点滅信号は5,000円)、遮断踏切立入り7,000円、指定場所一時不停止5,000円、通行区分違反6,000円、並進・二人乗り3,000円となっています。反則金額は原付と同一の考え方で組まれています。

さきほど触れた安全運転義務違反(法第70条)は、この一覧に別の行として並んでいます。個別の規則の文言に当たらない危険な運転を受け止める、受け皿のような位置づけです。

8. ヘルメットと保険の話も同じ構造をしている

自転車まわりのルールを調べていると、「法律が全国一律で決めていること」と「都道府県が決めていること」が入り混じっていることに何度も行き当たります。ヘルメットと保険はその典型です。

ヘルメットは法律の本体に書かれています。

第六十三条の十一 自転車の運転者は、乗車用ヘルメットをかぶるよう努めなければならない。
2 自転車の運転者は、他人を当該自転車に乗車させるときは、当該他人に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。
3 児童又は幼児を保護する責任のある者は、児童又は幼児が自転車を運転するときは、当該児童又は幼児に乗車用ヘルメットをかぶらせるよう努めなければならない。 道路交通法 第63条の11

三つの項がすべて「努めなければならない」で終わっています。罰則はなく、反則行為にも入っていません。全国一律の努力義務、というのがヘルメットの位置づけです。

一方、自転車損害賠償責任保険等への加入は都道府県の条例が決めています。国土交通省の資料によれば、令和6年4月1日現在、34都府県が条例で加入を義務化し、10道県が努力義務としています。住んでいる場所によって義務か努力義務かが変わる仕組みです。

職場の規程でヘルメットや保険が求められる場合もあります。それは法令とは別の層の話で、条文を読んでも出てきません。ルールがどの層から来ているのかを分けて見ると、自分が何に従っているのかが少し見通しやすくなります。

おわりに

「イヤホンは違反です」という一行で片づけてしまうと、ここまでの構造は全部見えなくなります。逆に構造が見えると、自分の県の条文を読みにいくことができます。都道府県名と「道路交通法施行細則」または「道路交通規則」で検索すれば、たいていは例規集にたどり着けます。

ここに書いたのは一つの考え方です。条文は改正されますし、地域によって運用の違いもあります。お気づきの点や、お住まいの県の条文についての情報がありましたら、お問い合わせフォームからお寄せいただけるとうれしいです。

出典