教室の水槽でザリガニを飼う場面は、生活科でも理科でも出てきます。そのアメリカザリガニは2023年6月1日から特定外来生物になりました。飼えなくなったのか、それとも今までどおりでいいのか。条文と通知をたどると、学校は一般家庭とは別の扱いになっていました。
先に結論です。
- 学校でアメリカザリガニとアカミミガメ(ミドリガメ)を飼うことは違法ではありません。許可も届出もいりません
- ただし学校は「一般家庭」ではなく「業として飼養等する場合」に当たります。環境省の告示が定める飼養等基準を守ることが条件で、一般家庭より条件は厳しくなります
- 授業で捕まえること、教室に持ち帰ることはできます。一度持ち帰った個体を池や川に戻すことはできません
- 学校で飼っている個体を児童生徒に配って持ち帰らせることは「頒布」に当たり規制対象です。その場で配って授業中に回収するのは可能です
- 野外に放したときの罰則は3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金(併科あり・法人は1億円以下)です
- 教育目的でも購入して飼う場合は許可が必要になります
- ウシガエルは条件付きではありません。飼うこと自体に許可がいります
- 文部科学省は2023年5月22日に各教育委員会あて事務連絡を出しています
以下、それぞれの根拠を一次資料でたどります。
この記事は法令と公的資料の内容を整理したものです。個別の事案が規制に当たるかどうかの判断は行政の権限に属します。条文と告示は2026年8月14日時点で確認した現行版から引用しています。
1. 2023年6月1日に変わったこと
アメリカザリガニとアカミミガメは、2023年(令和5年)6月1日から特定外来生物になりました。ただし通常の指定ではなく「条件付特定外来生物」という枠です。閣議決定は2023年1月20日でした。
この枠は2022年の法改正で追加された外来生物法の附則第五条を根拠にしています。条文はこう書いています。
新たに特定外来生物となる外来生物について、我が国におけるその生息又は生育の状況、飼養等の状況その他の状況に鑑み、第四条及び第七条から第九条までの規定を適用することによりかえって当該特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に支障を及ぼすおそれがあると認められるときは、当該特定外来生物については、当分の間、これらの規定の全部又は一部を、政令で、当該規定ごとにその種類を指定して、特定外来生物による生態系等に係る被害の防止のため必要な条件を付して適用しないこととすることができる
外来生物法 附則第五条(抜粋)指定すると一斉に飼えなくなり、行き場をなくした個体が野外に出る。それを避けるための仕組みだと環境省は説明しています。実際に外されたのは第四条(飼養等の禁止)と第八条(譲渡し等の禁止)の一部だけです。
外されていない規定があります。第七条(輸入の禁止)と第九条(放出等の禁止)は、そのまま生きています。条件付きという言葉は規制全体がゆるいという意味ではなく、4つある禁止のうち2つを部分的に外している、という意味になります。
一般の人がアメリカザリガニやアカミミガメについてできること、できないことは環境省が整理しています。捕まえること、持ち帰ること、飼うことは規制されません。少ない相手への無償の譲渡も手続きは不要です。一方で生きた個体の販売・頒布・購入は禁止され、野外に放すことも禁止されます。
もうひとつ、環境省が明記しているのがキャッチアンドリリースです。
捕獲してすぐにその場で放すこと(キャッチアンドリリース)は規制対象ではありません。
環境省「アカミミガメ・アメリカザリガニの規制内容と手続き」その場で放すのはよくて、持ち帰ってから放すのは禁止される。この線が学校の活動と深く関わります。
2. 学校は「一般家庭」ではない
条件付特定外来生物の適用除外は、業として飼養等を行う者とそれ以外の者とで条文が分かれています。学校がどちらに入るかは、環境省が例示しています。
一般家庭以外で飼養等する場合で、営利・非営利を問わず、反復継続して飼養等しており、社会通念上事業の遂行と見ることができる程度のもの
(該当例)動物園や水族館における飼養等/アメリカザリガニの釣り場での飼養等/学校等における教育事業の一環での飼養等/学術研究のための研究施設での飼養等/防除事業の一環での飼養等
学校での飼育は名指しで「業として」の側に置かれています。営利かどうかは関係しないと書かれているとおりです。
この場合、飼養等の禁止が外れる条件が1つ増えます。施行令の附則は、業として行う者については「当該生物の種類ごとに主務大臣が定める方法によりなされる飼養等である場合」に限って第四条を適用しない、としています。その方法を定めたのが令和5年環境省告示第36号です。2023年4月17日に公布され、政令の施行日である6月1日から適用されています。
告示の概要資料は求められる方法を3つ挙げています。
- 特定飼養等施設の基準の細目を満たす飼養等施設で飼養等を行うこと
- 飼養等の状況の確認及び特定飼養等施設の点検を定期的に行うこと
- 施設外での飼養は原則禁止。ただし複数の取扱者の立会いのもとで、十分な強度を有する網に入れるなどの逸出防止措置がある場合は例外がある
許可を取る必要はありません。届出もいりません。そのかわり、フタのない水槽で廊下に置いたままにするような飼い方は条件から外れることになります。学校は優遇されているのではなく、一般家庭より条件が付いている側です。
施設基準の細目そのものは環境省の別添PDFにあります。今回はその数値までは確認できていません。実際に水槽やケージを用意するときは、細目を直接あたることをおすすめします。
3. 持ち帰ったあとに戻せなくなる
文部科学省は2023年5月22日に「学校におけるアカミミガメ及びアメリカザリガニの取扱いについて(周知)」という事務連絡を各都道府県・指定都市教育委員会などに出しています。その別紙として、環境省が同年5月18日に出した周知依頼が丸ごと収録されています。学校の場面に踏み込んでいるのは環境省側の文書です。
捕獲は外来生物法の規制対象ではないため、学校での教育活動で野生のアカミミガメ等を捕獲することは可能です。捕獲したアカミミガメ等を持ち帰ることも可能ですが、一度持ち帰ったものを野外に放すことは禁止となるため、最後まで逃がさずに飼うことが出来るかどうかをよく考えたうえで持ち帰ることを徹底頂くようお願い致します。
環境省 自然環境局野生生物課外来生物対策室「周知依頼」令和5年5月18日(文部科学省事務連絡 別紙1)学習指導要領の側を見ると、採集したあとをどうするかは書かれていません。小学校理科の解説にあるのは採集そのものについての一文です。
生物の飼育,栽培活動において,野外で生物を採取する場合には,必要最小限にとどめるなど,生態系の維持に配慮するとともに,生物の体のつくりと働きの精妙さを認識し,生物を愛護しようとする態度を養うことができるようにする。
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編 第4章観察が終わったら元の場所に返す、という締め方は現場でよく行われてきた形だと思われます。ただしこの2種については、持ち帰ったあとに返すことが禁止されます。戻せる生き物と戻せない生き物が、同じ水路の中に混ざっているという状態です。
4. 児童に配って持ち帰らせると頒布になる
同じ周知依頼には、実務にいちばん近い一文が入っています。
学校での教育活動でアカミミガメ等を児童生徒に配り、その場で解剖等に用いたり回収したりすることは可能ですが、学校で飼養等をしているアカミミガメ等を児童生徒に配り持ち帰らせることは頒布に当たるため、規制対象となります。
環境省 自然環境局野生生物課外来生物対策室「周知依頼」令和5年5月18日無償なのに規制対象になるのは、条文の外し方によります。施行令の附則が第八条を適用しないとしているのは「販売若しくは購入又は頒布に当たらない譲渡し等」の場合です。友人同士でゆずるような少数のやりとりはここに入ります。クラス全員に配って持ち帰らせる行為は頒布のほうに入る、という整理になります。
増えすぎた個体を希望者に持ち帰ってもらう。飼育当番の家庭に夏休みだけ預ける。どちらも自然に見える運用ですが、前者は頒布の側に立ちます。
| 学校で起きる場面 | 法律上の扱い |
|---|---|
| 授業で近所の水路のザリガニを捕まえる | 規制対象ではない |
| 捕まえてその場ですぐ放す | 規制対象ではない |
| 教室に持ち帰って飼う | できる。飼養等基準を守ることが条件 |
| 学年末に近所の池へ放す | 禁止(第九条・放出) |
| 飼っている個体を児童に配って持ち帰らせる | 頒布に当たり規制対象 |
| 授業中に配り、その時間内に回収する | できる |
| 教育目的で購入して飼う | 飼養等の許可が必要 |
| ビオトープに住みついていて世話をしていない | 飼養等に当たらない |
| そのビオトープに給餌するなど管理している | 飼養等に当たる |
いちばん下の2行も同じ周知依頼が根拠です。学校のビオトープに自然に住みついている場合であっても、給餌など「アカミミガメ等の誘因、維持、死傷の防止等のための具体的な管理行為」を行っていなければ飼養等に該当しない、と書かれています。裏を返すと、餌をやりはじめた時点で扱いが変わります。
放出の罰則は軽くありません。第九条に違反した場合は第三十二条が適用され、3年以下の拘禁刑または300万円以下の罰金となります。両方を科すこともできます。法人には1億円以下の罰金という別枠があります。
5. ウシガエルは条件付きではない
条件付特定外来生物はアメリカザリガニとアカミミガメの2種だけです。学校の周辺でよく見かけるほかの生き物は、通常の特定外来生物のほうに入ります。ウシガエルは2005年6月1日の施行時からの指定です。
通常の指定では第四条がそのまま効きます。飼養、栽培、保管、運搬のすべてが原則禁止で、飼うには環境大臣の許可がいります。持ち帰ることも運搬に当たります。
ただし許可の目的には教育が並んでいます。
第三条 法第五条第一項の主務省令で定める目的は、次に掲げる目的とする。
一 博物館、動物園その他これに類する施設における展示
二 教育
三 生業の維持
(以下略)
学校は許可を取れる立場にあります。逃げ出さない施設を用意し、環境省の地方機関に申請して審査を受けるという手順になります。一方で、施行規則のうち許可なしで飼養等ができる「やむを得ない事由」を並べた条文には、学校も教育機関も出てきません。学校だから不要になるという規定は、確認した範囲ではありませんでした。
ザリガニは種類で3つに分かれる
ザリガニは名前が似ていても扱いが違います。
| 種類 | 扱い | いつから |
|---|---|---|
| ニホンザリガニ | 外来生物法の規制対象ではない | — |
| アメリカザリガニ | 条件付特定外来生物 | 2023年6月1日 |
| 上記以外の外来ザリガニ(ヤビー・マロン・ウチダザリガニなど) | 特定外来生物(飼うには許可が必要) | 2020年11月2日 |
環境省は「2020年11月2日からアメリカザリガニを除く全ての外来ザリガニ類が特定外来生物に指定されています」と書いています。ペットショップで見かける青いザリガニなどはこちらに入ることがあります。
このほか、学校の教材や地域の自然観察で出会いそうな種では、オオヒキガエル、シロアゴガエル、カダヤシ、ブルーギル、オオクチバス、コクチバス、チャネルキャットフィッシュ、ガー科の全種、アカボシゴマダラ、クビアカツヤカミキリ、セイヨウオオマルハナバチ、アルゼンチンアリ、ツマアカスズメバチ、チュウゴクモクズガニなどが特定外来生物に入っています。2026年8月14日に環境省のサイトで確認した時点では、特定外来生物は162種類でした。
6. 必修の飼育と、解説の一文
小学校生活科では、飼育は2学年にわたる継続的な活動として位置づけられています。
第2の内容の⑺については,2学年間にわたって取り扱うものとし,動物や植物への関わり方が深まるよう継続的な飼育,栽培を行うようにすること。
小学校学習指導要領(平成29年告示)生活 第3 指導計画の作成と内容の取扱い ⑶外来生物についての記述は、解説のなかに一文だけあります。休日の世話や獣医師との連携、手洗いやアレルギーへの対応と並ぶ位置に置かれています。
また,地域の自然環境や生態系の破壊につながらないように,外来生物等の取扱いには十分配慮しなければならない。
小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編外来生物を正面から扱うよう書かれているのは中学校理科です。第2分野の「自然と人間」に「気候変動や外来生物にも触れること」とあります。小学校の段階では、飼うことが必修で、外来生物への配慮は解説の一文という配分になっています。
そして、飼育する動物の選び方として使われる語は「身近な環境に生息しているもの」です。日本の身近な水辺でいちばん見つけやすい生き物のひとつがアメリカザリガニだという現実と、ここが重なります。
環境省自身も、この重なりを対策の手引きに書いています。
身近な生物を観察・採集・飼育するという学校教育のカリキュラムの中で、アメリカザリガニが飼育されることがあり、最終的に学校敷地内や近所の水域に放流される。
環境省「アメリカザリガニ対策の手引き」令和4年4月・分布拡大の経路として同じ手引きには「身近な水辺の生きものを生息していない場所に拡げることが良いことであるという誤解のもと、『善意』として意図的に放流してしまう」という記述もあります。責任の所在ではなく、制度の継ぎ目のほうを指した書き方になっています。
7. 資料は用意されている
環境省は2022年4月14日に、アメリカザリガニについての学校教育用の教材を公表しています。小学校1・2年生の生活科向けが2点、3・4年生の理科向けが2点、それに教員向けの解説が1点という構成です。
教員向けの資料には、この教材で伝えたい中心が書かれています。
生物を扱う授業において、何より1番伝えるべきポイントは「(外来生物に限らず)飼育する生き物は最期まで責任をもって飼う(終生飼育)」です。
環境省「教員のみなさんへ ~この教材のねらいと概要、授業活用例~」同じ資料には「アメリカザリガニ自体が悪いのではなく、問題の背景に身勝手な人間の行為があることを伝える」という一文もあります。外来種被害予防三原則も巻末に置かれています。入れない・捨てない・拡げないの3つです。
アカミミガメについては別に学習プログラムがあり、小学校高学年以上を対象に45分×2時限で組まれています。
これらの教材が置かれているのは環境省のサイトです。文部科学省側の教材リンク集からは直接つながっていません。通知のほうは2023年5月22日の事務連絡があり、翌2024年8月28日の「学校における動物の飼育について(依頼)」でも、その事務連絡を踏まえた配慮が「その他」の項目として1行入っています。
その2024年の通知には、児童の持ち込みに触れた箇所もあります。
学校の所有・占有によって飼育する場合のみならず、昆虫等については児童個人の所有・占有によって飼育する場合もあるが、いずれにしても、小学校学習指導要領等を踏まえ、児童が生き物への親しみをもち、大切にしようとすることができるよう、適切な指導を行うこと。
文部科学省「学校における動物の飼育について(依頼)」令和6年8月28日ここは指導と保護者負担の観点からの記述で、外来生物の観点ではありません。児童が自分で捕まえた生き物を学校へ持ち込むこと自体について、可否や手順を述べた公的な文書は見つけられませんでした。
おわりに
アメリカザリガニは、飼えなくなったわけではありません。変わったのは出口のほうです。捕まえて持ち帰るところまでは今までどおりで、そこから先に戻る道がなくなりました。学校の場合はさらに、飼い方そのものに告示の条件が付きます。
この2つは、水槽を置く前に決まる話です。何匹持ち帰るか、最後まで飼えるか、増えたときにどうするか。持ち帰る前に考えておくことを、環境省の周知も同じ順番で求めています。
ここに書いたのは一つの考え方です。条文や告示は改正されますし、自治体の条例が別に定めている場合もあります。お気づきの点がありましたら、お問い合わせフォームからお寄せいただけるとうれしいです。
出典
- 特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(平成16年法律第78号)第一条・第四条・第五条・第七条・第八条・第九条・第九条の二・第三十二条・第三十三条・第三十六条・附則第五条 e-Gov法令検索
- 同法施行令(平成17年政令第169号)別表第一・附則第二条 e-Gov法令検索
- 同法施行規則(平成17年農林水産省・環境省令第2号)第二条・第三条 e-Gov法令検索
- 環境省「条件付特定外来生物アカミミガメ・アメリカザリガニの規制について」 日本の外来種対策
- 環境省「アカミミガメ・アメリカザリガニの規制内容と手続き」 日本の外来種対策
- 環境省「アカミミガメ及びアメリカザリガニを条件付特定外来生物に指定する政令の閣議決定について」令和5年1月20日 報道発表
- 環境省「条件付特定外来生物に指定されるアカミミガメ及びアメリカザリガニに係る特定飼養等施設の基準の細目等及び業として行う飼養等の方法の公布について」令和5年4月17日 報道発表/告示の概要 PDF
- 環境省「(参考)アカミミガメ、アメリカザリガニの規制の概要」 PDF
- 環境省「外来ザリガニ」 日本の外来種対策
- 環境省「特定外来生物等一覧」 日本の外来種対策
- 環境省「飼養等に関する手続き」 日本の外来種対策/罰則
- 文部科学省「学校におけるアカミミガメ及びアメリカザリガニの取扱いについて(周知)」令和5年5月22日事務連絡(別紙1に環境省 令和5年5月18日付 周知依頼を収録) PDF
- 文部科学省「学校における動物の飼育について(依頼)」令和6年8月28日・6初教課第24号 PDF/掲載ページ
- 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 生活編』 PDF
- 文部科学省『小学校学習指導要領(平成29年告示)解説 理科編』 PDF/中学校理科編 PDF
- 環境省「アメリカザリガニ対策関係資料(手引き、教材、動画)の公表について」令和4年4月14日 報道発表/学習ツール
- 環境省「教員のみなさんへ ~この教材のねらいと概要、授業活用例~」 PDF
- 環境省「アメリカザリガニ対策の手引き」令和4年4月 PDF
- 環境省「アカミミガメを知ろう!」学習プログラム 教材1 PDF