「し」をローマ字でどう書くか。si と shi のどちらを習ったかは、学校に通った年で違います。2025年12月22日、このつづり方を定めた内閣告示が入れ替わりました。新しいほうは shi です。

ただし si が間違いになったわけではありません。何がどう変わったのかを、告示と文化庁の資料で確かめました。

  • し・ち・つ・ふ・じ は shi・chi・tsu・fu・ji
  • これまで表が2つあったのが1つになりました
  • ヘボン式そのままではありません。「ん」は b・m・p の前でも n(kanpai)、「っ」は子音字を重ねます(nicchoku)
  • 訓令式(si・ti・tu)が使えなくなるわけではありません
  • パスポートもローマ字入力もそのままです
  • 教科書は令和8年10月に出る下巻から順に入れ替わります

1. 「し」は si か shi か

変わるのは7つです。

かなこれまでこれから
しsishi
ちtichi
つtutsu
ふhufu
じziji
しゃsyasha
じゃzyaja

残りのかなは変わりません。「ぢ」と「づ」は「じ」「ず」と同じ ji・zu、「を」は「お」と同じ o です。

新しいつづりで作ったローマ字プリント

小学3年生向けのローマ字プリント29枚を無料で配っています。
アルファベットの書き方から、ローマ字表・読む・書くまで。令和7年内閣告示第4号の本表に合わせてあります。

ローマ字プリントを見る

2. 訓令式とヘボン式

日本語をローマ字で書く方法は、ひとつではありませんでした。大きく2つあります。

訓令式は si・ti・tu・hu・zi と書く方法です。小学校で習ってきたのはこちらです。名前は昭和12年の内閣訓令に由来します。

ヘボン式は shi・chi・tsu・fu・ji と書く方法です。駅名標やパスポート、道路標識で見かけるのはこちらです。

同じ「新宿」が、訓令式なら Sinzyuku、ヘボン式なら Shinjuku になります。

昭和29年の告示は、この2つを第1表と第2表に分けて載せていました。第1表が訓令式で、答申の説明では「一般に国語を書き表す」ものとされていました。第2表には、第1表と違うヘボン式のつづりと、日本式のつづりが置かれていました。

学校が訓令式を教え、街にはヘボン式があふれる。この状態が70年続きました。文化審議会の答申はこう書いています。

このつづり方は一般の社会生活に定着しているとは言えない。

原則のはずの第1表が定着しなかった。今回の改定はこの実態に合わせたものです。

3. 新しい表は1つ

新しい告示は、第1表と第2表という分け方をやめました。答申の概要の言い方です。

実際に社会で広く使用されているヘボン式に基づくつづり方を採用し、表を一つとする

構成は前書き・本表・添え書き・(付)対照表です。訓令式のつづりは本表から外れ、(付)対照表に残りました。

 これまでこれから
告示昭和29年内閣告示第1号令和7年内閣告示第4号
日付昭和29年12月令和7年12月22日
表第1表(訓令式)・第2表本表のみ

新しい告示の末尾に「なお、昭和29年内閣告示第1号は、廃止する。」と書かれています。

この前に、文化審議会の答申「改定ローマ字のつづり方」(令和7年8月20日)があります。答申の時点では告示はまだ出ていません。答申だけを読むと「これから変わる」と受け取れるので、日付を取りちがえやすいところです。

4. ヘボン式そのままではない

駅名標やパスポートのつづりがそのまま入ったわけではありません。2か所で違います。

「ん」は b・m・p の前でも n

ヘボン式には、b・m・p の前の「ん」を m で書く流儀があります。shimbun や Gumma の形です。新しい告示はこれを採りません。

告示の添え書きは「『ン』は、例に示すように n と書く」としています。かんぱい は kanpai、あんまん は anman。次に来る音を気にせず n と書けます。

「っ」は子音字を重ねる

てっぱん は teppan。ここまでは同じです。違うのは ch の前で、ヘボン式には「にっちょく」を nitchoku と書く流儀がありますが、新しい告示は nicchoku です。

かなよく見かける形新しい本表
かんぱいkampaikanpai
あんまんammananman
にっちょくnitchokunicchoku

5. のばす音

告示の添え書きは「母音字の上に符号(『¯』)を付けて表す」としています。おかあさん なら okāsan です。

符号を打てない場面も多くあります。答申の概要には「長音符号を用いない場合には、母音字を並べる方法を周知」とあり、okaasan と書く道も残されています。

ことば符号を使う母音字を並べる
おかあさんokāsanokaasan
おとうさんotōsanotousan
おねえさんonēsanoneesan

どちらで書くかは場面によります。手書きのプリントなら符号が使えますが、メールアドレスや検索窓では母音字を並べるほかありません。子どもには、どちらで書いてもいいことを先に言っておくほうが混乱が少ないと思います。

名前や団体名は別です。概要にこうあります。

長音に「h」を用いることなど、個人の姓名、団体名等を書き表す場合については、当事者の意思を尊重する

大野さんが Ohno と書いてきたなら、そのままで構いません。

6. 訓令式はこれからどうなるか

文化庁国語課のQ&A(令和8年2月)に、そのままの問いがあります。

問 訓令式や日本式は、今後一切使わなくなるということですか。

答 訓令式や日本式がなくなるわけではありません。「ローマ字のつづり方」は、「現代の国語をローマ字で書き表す場合のよりどころを示す」ものですが、各種専門分野や個々人の表記にまで及ぼそうとするものではありません。

光村図書出版が公開している3年の児童用学習材を開くと、ローマ字表の「し」が shi(si) という形になっています。新しいつづりの横に、カッコで古いつづりが添えてある。ち・つ・ふ・じ も同じです。告示の(付)対照表と同じ作りになっています。

パスポートや道路標識

Q&Aの問54にこうあります。「パスポートのように、各分野で用いられ定着してきたローマ字のルールについては、すぐに変更することを求めていません。」手元のパスポートのつづりはそのままです。

ローマ字入力

キーボードの打ち方も変わりません。概要には「入力方法等に何ら変更を求めるものではない」とあります。Q&Aの問46は、入力では日本式に準じた方法が使われることに触れ、「ぢ」「づ」や助詞の「を」を出すには di・du・wo と打つと書いています。

書き方と打ち方は別です。「を」をローマ字で書くときは o。キーボードで打つときは wo。GIGA端末でタイピングを覚えた子ほど混ざりやすいので、分けて教えるほうが早いと思います。

7. 学校と教科書

ローマ字は小学3年の国語で扱います。答申の概要には、学校教育についてこうあります。

学校教育においても、答申の趣旨に基づいた指導が行われるよう、児童生徒の発達段階等に配慮した教育上の適切な措置に委ねる

時期の指定はありません。実際の動きは教科書の発行者が出しています。主な3社が令和8年度の案内を公開し、差し替えや補充のための教材を無償で配っています。

発行者公開出しているもの
光村図書出版令和8年3月17日
(4月3日更新)
3年・4年・5〜6年の児童用学習材と指導用資料
東京書籍2026年3月24日3〜6年の国語・書写の児童用補充教材
教育出版指導用資料
2026年6月26日
3年・6年の移行資料

時期をはっきり書いているのは東京書籍です。

令和8年10月以降にご使用いただく『新編 新しい国語 三下』『新編 新しい国語 四下』につきましては、上記「ローマ字のつづり方」の内容に沿った教科書を供給いたします。

下巻から順に入れ替わります。上巻は補充教材で補い、刷り直されるまでをプリントでつなぐ形です。

学年で扱いが違う

光村図書出版の案内には、5・6年についてこうあります。

改定後のローマ字のつづり方の学習は必須ではありませんが、指導される場合に、適宜ご活用ください。

3年と4年には学習材が用意され、5年と6年は必須ではない。学年が上の子ほど、古いつづりのまま終わる場面が残ります。

Q&Aの問24には、古い告示に基づいた小学校国語科の教科書で「兄さん」を nîsan と表記するものがあるという記述もあります。符号を使う形も実際に使われてきました。

8. 手元のプリントの見分け方

し・ち・つ・ふ・じ の5つを探せば分かります。si・ti・tu・hu・zi が出てくれば古い第1表のつづりです。shi・chi・tsu・fu・ji なら新しい本表と同じ形になります。

逆は言えません。古い告示でも第2表を使えば shi と書けたからです。発行された時期と合わせて見てください。

おわりに

70年ぶりの入れ替えですが、変わったのはこれから書くときの基準です。いま持っているパスポートも、看板も、名刺も、そのままで構いません。教科書は令和8年10月の下巻から順に入れ替わります。

ここに書いたのは告示とQ&Aの記載を並べた一つの整理です。学校での扱いには地域差や教科書による違いがあり、配られているプリントの形は学校ごとに変わります。お子さんの教科書と食い違うところがあれば、そちらが現場の実態です。

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主な参考資料

  • 「ローマ字のつづり方」(令和7年内閣告示第4号・令和7年12月22日)本文(文化庁・PDF)
  • 文化庁「ローマ字のつづり方」(内閣告示・内閣訓令)(bunka.go.jp)
  • 文化庁国語課「『ローマ字のつづり方』(令和7年内閣告示第4号)に関するQ&A」令和8年2月(PDF)
  • 文化審議会「改定ローマ字のつづり方(答申)」令和7年8月20日(PDF)
  • 「改定ローマ字のつづり方(答申)」の概要(PDF)
  • 光村図書出版「『ローマ字のつづり方』内閣告示に伴う、今後のローマ字指導について」令和8年3月17日公開・4月3日更新(mitsumura-tosho.co.jp)
  • 光村図書出版 小学校国語 3年 児童用学習材「ローマ字」(PDF)
  • 東京書籍「令和8年度小学校国語・書写のローマ字指導ならびに補充教材のご提供について」2026年3月24日(東書Eネット)
  • 教育出版「令和8年度以降のローマ字指導について」(kyoiku-shuppan.co.jp)

※本文中の「」内は告示・答申・Q&A・各発行者の案内からの引用です。