はじめに:文の「組み立て」を知ると、日本語は読みやすくなる

日本語の文には、組み立て方によって「単文・重文・複文」という種類があります。ふだん意識することは少ないかもしれませんが、この「文の骨組み」を理解しておくと、長い文や複雑な文がぐっと読み取りやすくなります。読む力・書く力の土台になる部分です。

そして、この文の構造は、ろう教育の現場でとても大切にしたいテーマでもあります。本記事では、まず一般的な文法としてやさしく整理し、後半で「なぜろう教育で大切なのか」を考えていきます。

文を組み立てる4つの部品:主語・述語・修飾語・接続語

文の組み立てを考えるとき、いちばんの土台になるのが主語と述語の関係(主述関係)です。

  • 主語:「何が・誰が」を表す部分(例:犬が、子どもが)
  • 述語:「どうする・どんなだ・何だ」を表す部分(例:走る、笑う、元気だ、学生だ)

「犬が走る」なら、「犬が」が主語、「走る」が述語です。この主述関係がいくつあるか・どうつながっているかで、文は単文・重文・複文に分かれます。

主語・述語のほかに、文にはあと2つ大切な部品があります。

  • 修飾語:ほかの言葉をくわしく説明する言葉。「赤い花」「ゆっくり歩く」の太字部分。
  • 接続語:文や言葉をつなぐ言葉。「そして」「しかし」「〜ので」「〜ば」など。

この「修飾語」と「接続語」の使われ方が、次に見る重文・複文のちがいを生みます。

単文:主語と述語が1組だけ

単文は、主述関係が1つだけの文です。

  • 子どもが 笑う。
  • 妹は ケーキを 食べた。
  • この花は とても きれいだ。

修飾語(「とても」「赤い」など)が増えても、主述関係が1組なら単文です。いちばん基本の形で、意味も取りやすい文です。

重文:対等な文が「並ぶ」(並立関係)

重文は、主述関係が2つ以上あり、それらが対等に並んでいる文です。どちらかがもう一方の一部になっているわけではなく、肩を並べている関係(並立関係)です。

  • 姉は ピアノを ひき、妹は 歌を うたう。
  • 父は 新聞を 読み、母は 料理を する。
  • 兄は 出かけたが、私は 家に 残った。

「姉はピアノをひく」+「妹は歌をうたう」という、それぞれ独立した文が対等に並んでいます。「〜し、」「〜て、」「〜が、」などでつながることが多いのが特徴です。

ポイント:2つの文が「どちらも主役」で対等に並んでいたら、重文です。

複文:文の中に文が組み込まれる(主従関係)

複文は、主述関係が2つ以上あり、一方が他方の中に組み込まれている文です。中心になる文(主節)に、別の文(従属節)が修飾語・条件・理由・時などとして従属している、いわば入れ子(主従関係)の構造です。

  • 私は [姉が 焼いた] パンを 食べた。 … [ ]が「パン」を説明する(連体修飾)
  • 雨が ふれば、遠足は 中止だ。 … 「雨がふれば」が条件を表す
  • 弟が 帰ってきたとき、私は 本を 読んでいた。 … 「〜とき」が時を表す
  • 道が こんでいたので、約束に 遅れた。 … 「〜ので」が理由を表す

たとえば「姉が焼いたパンを食べた」では、「私はパンを食べた」が中心の文で、その中に「姉が焼いた」という小さな文が入り込んで「パン」を説明しています。

ポイント:片方の文が、もう片方の文の「部品(説明・条件・理由・時など)」になっていたら、複文です。

複文の3つの型

複文で組み込まれる文(従属節)には、大きく3つの型があります。

はたらき例([ ]が組み込まれた文)
連体修飾節名詞をくわしく説明する私は [姉が 焼いた] パンを 食べた。
連用修飾節時・理由・条件・逆接などを表す[雨が ふれば]、遠足は 中止だ。/[道が こんでいたので]、遅れた。
引用節「〜と」の形で考え・発言を組み込む[明日は 晴れる]と 天気予報が 言った。

ポイント:どの型も「文の中に、もう一つの主述関係が入っている」点は同じです。まず組み込まれた文(従属節)を見つけ、それが名詞を説明しているのか/時・理由などを表しているのかを見分けると、複文が読みやすくなります。

重文と複文の見分け方

ちがいを表にまとめます。

種類主述関係の数文どうしの関係よく使われる形
単文1組犬が 走る。
重文2組以上対等(並立)〜し、/〜て、/〜が、姉は ひき、妹は うたう。
複文2組以上主従(入れ子)〜とき/〜ので/〜ば/(〜が…名詞)姉が 焼いた パンを 食べた。

見分けるコツはシンプルです。

  • 2つの文が対等に並んでいる → 重文
  • 片方の文がもう片方の一部(説明・条件・理由など)になっている → 複文

補足:実際の文章では、重文と複文が混ざった長い文もよくあります。まずは「主述関係はいくつか」「対等か、入れ子か」を見つけることが、読み解きの第一歩です。

複雑な文:重文と複文が混ざる

実際の文章では、重文と複文が1つの文に混ざることがよくあります。

例:姉は ピアノを ひき、弟は [母が 書いた] 手紙を 読んだ。

  • 「姉はピアノをひく」+「弟は手紙を読んだ」が対等に並ぶ → 重文の骨組み
  • その「弟は手紙を読んだ」の中に「母が書いた」(連体修飾節)が入っている → 複文の要素

このように長い文は、「対等に並ぶ部分(重文)」と「入れ子の部分(複文)」が組み合わさってできています。慌てず、主述関係を1つずつ見つけていくことが読み解きの近道です。

実践:長い文を「分解して読む」

複文が続く長い文も、順番に分解すれば読み取れます。次の文で練習してみましょう。

例:父が 駅で 買った 新聞を、私は 電車の 中で 読んだ。

  1. まず述語を探す → 「読んだ」
  2. その主語は? → 「私は」
  3. 何を読んだ? → 「新聞を」
  4. その新聞はどんな新聞? → 「父が 駅で 買った」(=連体修飾節。ここにも「父が・買った」という小さな主述がある)

こうして「中心の文(私は新聞を読んだ)」と「組み込まれた文(父が駅で買った)」に分けると、意味がすっきり見えてきます。述語 → 主語 → 目的語 → 修飾の順にたどるのがコツです。

なぜ、ろう教育で大切にしたいのか

ここからが本題です。文の構造、とくに複文は、ろう児・ろう生徒の日本語の力を育てるうえで、大きな意味を持ちます。

「9歳の壁」と、抽象的・複雑な日本語

ろう教育では、昔から「9歳の壁」という言葉が語られてきました。これは、9歳前後で学習やことばの発達に壁を感じやすいとされる現象で、具体的な内容から抽象的な内容へ、単純な文から複雑な文へと進む段階でつまずきやすいことを指します。

身近な単文は比較的早く身につく一方、抽象的なことばや複雑な文の構造(とくに複文)でつまずきが起きやすい——ここを意識的に支えることが、その先の読む力・学ぶ力につながります。なお、これは「必ず起こる壁」というより、早期からの豊かなことばの環境で和らげられる課題と考えられています。

複文が、とくに難しい理由

複文の習得が難しくなりやすいのには、いくつか理由があります。

  • 入れ子(連体修飾):「お母さんが 作った ケーキ」のように、文の中に文が埋め込まれる。「誰が・何を・どうした」という関係を、頭の中で保持しながら読む必要があります。
  • 論理をつなぐことば:「〜ので(理由)」「〜のに(逆接)」「〜ば(条件)」「〜ても(譲歩)」など、接続のことばが目に見えない抽象的な関係を担っています。
  • 助詞と、省略された主語:「が・は・を・に」などの助詞や、日本語で省略されがちな主語をたどる力が要ります。

聞こえの状況によって、こうした複雑な日本語に自然に触れる機会が少ないと、習得に時間がかかりやすくなります。

つまずきの例(複文)

  • 連体修飾のねじれ:「犬が 追いかけた 猫」を、「犬が 猫を…」と、誰が誰にしたのかが入れ替わって読まれることがあります。
  • 助詞の取り違え:「が・を・に・は」を読み飛ばす・取り違えると、主語と目的語が入れ替わってしまいます。
  • 主語の見失い:文が長くなると「今の主語は誰か」を追えなくなりがちです。

日本手話と日本語は、別の言語

ここで忘れてはいけないのが、日本手話には独自の文法があるということです。空間の使い方、同時性、CL(類別詞)、表情や視線などの非手指動作、トピック‐コメント構造など、日本手話は日本語の語順や複文の作り方とそのまま1対1で対応するわけではありません。

つまり、手話が豊かに育っている子であっても、日本語の複文を読む・書くことは「もう一つの言語の構造を学ぶ」課題になります。逆に言えば、豊かな手話の力を土台にして、日本語の文の組み立てへ意識的に橋渡しすること(バイリンガル・バイカルチュラルの視点)が、大きな力になります。

だから「文の骨組み」を育てたい

文の組み立ては、一般に単文 → 重文 → 複文の順で育っていきます。この順序を意識して、今どの段階にいるかを見ながら積み上げると、無理がありません。

文の組み立てをスモールステップで意識的に育てること。これが、読む力・書く力、そして学習全体の土台になります。文の骨組みが見えるようになると、教科書や試験の長い文も「分解して読む」ことができるようになります。

指導・支援のヒント(一般的な範囲で)

現場ごとに最適な方法は異なりますが、一般的に有効とされる工夫を段階別に整理します。

単文の段階

  • 短い文で、まず主語と述語をはっきりさせる。「誰が」「どうした」を色分け・位置で見える化する。

重文の段階

  • 対等に並ぶ2つの文を、区切りで分けて読む。「ここまでが1つ目、ここからが2つ目」と示す。

複文の段階

  • 入れ子を図で見せる。「どの文が、どの名詞・どの文を説明しているか」を線や矢印でつなぐ。
  • 接続のことば(〜とき・〜ので・〜ば)を1つずつ丁寧に扱う。

共通して大切なこと

  • 手話で意味をつかんでから、日本語の形に橋渡しする(意味 → 形の順)。
  • 子どもの実態に合わせ、無理なく積み上げる。

よくあるつまずきと質問

Q. 「〜し、」でつながる文は全部重文?

A. 対等に並んでいれば重文です。片方が理由や条件などで従属していれば複文になります。つなぎ方だけでなく「対等か、入れ子か」で見分けます。

Q. 重文と複文が混ざることはある?

A. あります。長い文では、対等に並ぶ部分(重文)の中に、入れ子の部分(複文)が含まれることがよくあります。

Q. 修飾語が多い長い文は複文?

A. いいえ。修飾語がいくら多くても、主述関係が1組なら単文です。「主述関係の数」で見分けます。

文法用語ミニ辞典

主語
「何が・誰が」を表す部分。
述語
「どうする・どんなだ・何だ」を表す部分。
修飾語
ほかの言葉をくわしく説明する言葉(赤い花/ゆっくり歩く)。
接続語
文や言葉をつなぐ言葉(そして・しかし・〜ので・〜ば)。
主節
複文の中心になる文。
従属節
主節に組み込まれ、修飾・条件・理由などを表す文。
連体修飾(節)
名詞をくわしく説明する(〜した+名詞)。
連用修飾(節)
述語や文全体にかかり、時・理由・条件などを表す。
並立(対等)関係
文どうしが肩を並べる関係。重文にみられる。
主従(入れ子)関係
一方が他方の一部になる関係。複文にみられる。

まとめ

文には、主述関係が1組の単文、対等に並ぶ重文、文の中に文が入り込む複文があります。見分けるコツは「対等に並ぶか(重文)/片方が片方の一部になっているか(複文)」。

ろう教育では、とくに複文の習得が大きな山になります。日本手話の豊かな力を土台にしながら、単文から複文へと文の骨組みを意識的に育てていくこと。それが、子どもたちの日本語の力、ひいては学ぶ力を支える土台になります。

注記:本記事は、一般的な文法の整理と、ろう教育における一般的な考え方をまとめたものです。指導の方法は、お子さん一人ひとりの実態や、各現場の方針に合わせてご検討ください。