反応速度テストをやると、「あなたは○○ミリ秒でした」という数字が出ます。平均より速い、遅い、と判定も出ます。でも、その数字はいったい何を測っているのでしょうか。
調べてみると、わたしたちが「反射神経」と呼んでいるものについて、思っていたのとかなり違うことが分かってきました。一流のスポーツ選手は反応が速いわけではない、素の反応の速さは練習してもほとんど変わらない、そして「反射神経」という名前の神経は存在しない ── そういう話です。
「反射神経」という神経はありません
生理学の教科書に「反射神経」という言葉は出てきません。あるのは「反射」と「反応時間」で、この2つは別のものです。
反射は、感覚から筋肉までの通り道が決まっていて、考えたり決めたりする過程を通らない反応です。ひざの下をたたくと足がぴょんと跳ね上がる、あれです。信号が脳まで行かずに背骨の中(脊髄)で折り返しているので、脊髄反射と呼びます。
刺激が来てから筋肉が動き出すまでの時間を潜時(せんじ)と言います。反射の潜時は短く、腕で25〜50ミリ秒ほど。ふくらはぎの筋肉(ヒラメ筋)で調べる方法では40〜45ミリ秒でした。1ミリ秒は1000分の1秒なので、0.025〜0.05秒です。まばたきより速い。
一方反応時間は、随意的な行動までの時間です。刺激を知覚し、どう反応するか判断・選択し、実際に体を動かす ── この3段階を含みます。ボタン押しで150〜300ミリ秒。
つまり、反応速度テストで測っているのは反射ではありません。潜時が1桁違います。「反射神経がいい」と言うとき、みなさんが指しているのは反射ではなく、この随意反応の速さのほうです。
言葉の細かい話に見えるかもしれませんが、この区別は後で効いてきます。反射は鍛えようがありませんが、随意反応には判断が含まれている。判断が含まれているということは、そこには変わる余地があるということです。
反応時間は、3つの時間の足し算です
アメリカの研究チームが、18〜65歳の1,469人に、こういう課題をやってもらいました。画面に印が出たら、できるだけ速くボタンを押す。ただそれだけを何十回も繰り返します。
結果は平均231ミリ秒。測定に使ったパソコンやマウス自体の遅れを差し引くと213ミリ秒でした。
面白いのはその内訳です。研究者は反応時間を刺激検出の時間と運動を開始する時間に分けました。刺激検出のほうは平均131ミリ秒。残りが体を動かすぶんです。
| 刺激 | 単純反応時間の目安 |
|---|---|
| 視覚(光・色) | おおむね 180〜240ミリ秒 |
| 聴覚(音) | 視覚より短い |
聴覚のほうが速いことは複数の研究で一致しています。ヒトの脳を計測した2024年の研究では、一次聴覚野の反応開始が約25ミリ秒、一次視覚野が約48ミリ秒で、聴覚のほうが中央値で約23ミリ秒早いと報告されています。
ただし、この比較には落とし穴があります。脳科学辞典は「異なるモダリティの刺激の強度を何らかの意味で一致させた上での実験が必要なため、厳密な比較は難しい」としています。モダリティというのは、見る・聞く・触るといった感覚の入り口の種類のことです。
つまり、音の大きさと光の明るさを、どうやって「同じ強さ」に揃えるのかという問題があります。答えのない問いなので、数字は目安として見てください。
2年間練習しても、素の反応時間は変わらなかった
ここからが本題です。反応時間は鍛えられるのでしょうか。
高校生94名(野球部26名・それ以外68名)を2年間追いかけた研究があります。結果はこうでした。
2年間の打撃練習で Go/Nogo反応時間(打つか見送るかを判断する課題)は改善した。しかし 単純反応時間は変わらなかった。
同じ研究チームは、大学生82名(野球22・テニス22・非運動38)とプロ選手17名も比べています。こちらでも競技経験や競技レベルによる単純反応時間の差はありませんでした。差が出たのはGo/Nogo反応時間のほうで、野球選手が他より速く、レベルが高いほど速く、プロが最速でした。
一方で、その課題そのものを反復すれば単純反応時間もある程度は短くなる、という報告もあります(16名を3週間訓練した研究)。ただし規模が小さく、何ミリ秒縮んだのかまでは確認できませんでした。
整理すると、こうなります。
| 鍛えやすさ | |
|---|---|
| 素の反応時間(単純反応時間) | 伸びしろは小さい。生理的な下限に近い |
| 判断を含む反応(選択反応・Go/Nogo) | 明確に短くなる |
選択肢が増えるほど反応が遅くなる関係はHickの法則として知られていますが、十分に練習すると2択と4択の差が消えることが1959年に報告されています。2018年のレビューでも、練習によって選択肢数の効果の傾きが小さくなること、第1セッションでは8択が2択より約500ミリ秒遅かったのが第5セッションでは300ミリ秒強まで縮んだことが示されています。
縮むのは「決める時間」です。「速く反応する」は鍛えにくく、「早く決める」は鍛えられる。
一流選手は「速い」のではなく「待てる」
では、一流のアスリートは何が違うのでしょうか。
クリケット(イギリスやインドでさかんな、野球に似た球技)の古典的な研究があります。プロ選手の打撃時の反応時間は約200ミリ秒で、実験室で測った値と同程度でした。さらに、ボウラーの動きから情報を拾う速さもプロとカジュアルプレイヤーでほぼ同じでした。研究者の結論は、熟練者と非熟練者の差は知覚系の速さではなく、視覚情報を使う運動系の組織化にある、というものです。
もっと面白いのがサッカーのゴールキーパーです。PKの映像に反応してもらう実験で、熟練GKは初心者と比べて ──
- 方向の予測が正確だった
- 反応を開始するまで、より長く待った
- 修正動作が少なかった
- 注視は回数が少なく1回が長く、蹴り足・軸足・ボールに集中していた
初心者のほうは、体幹・腕・腰を長く見ていました。
速く反応するのが熟練なのではなく、待てるのが熟練だったということです。早く動き出せば、フェイントにかかります。
世界クラスの打者を調べた研究では、熟練者は下位者と同じ手がかりを速く処理しているのではなく、下位者が使えていないより早い手がかり(ボウラーの手や腕)を新しく使えるようになっていました。同じ時間の中で、先に情報を取っている。
格闘技を対象にしたメタ分析でも、熟練者の優位は反応時間(効果量 −1.00)より反応の正確性(1.24)と注視回数の少なさ(−2.04)に大きく出ました。著者たちは「熟練者の速さは生の処理速度ではなく、先行手がかりを使った知覚的予測による」と明記しています。
FPS・eスポーツはどうなのか
ゲームなら反応時間がものを言いそうです。ここも調べました。
15研究・1,085名を集めたメタ分析の結果です。プロ/上位1%と一般プレイヤーを比べると ──
| 領域 | 効果量 | 有意差 |
|---|---|---|
| 空間認知 | 0.822 | あり |
| 正確性 | 0.560 | あり |
| ボトムアップ注意 | 0.416 | あり |
| 反応時間・速度 | 0.215 | なし |
| 運動制御 | — | なし |
ゲーマー131名を測った別の研究でも、選択反応時間にゲーマーと非ゲーマーの有意差はありませんでした。プロFPS選手14名とアマチュア16名を比べた研究でも、処理速度に有意差はなく、大きな差が出たのは空間的短期記憶(効果量1.27)でした。
差が出ているのは、反応の速さではなく空間を捉える力のほうです。どこに何があったかを覚えている、複数のものを同時に追える、次にどこへ動くかを読める ── サッカーやバスケットボールの「周りが見えている」も、たぶん同じ系統の話です。
さらに、これらはすべて横断研究です。ゲームをやったから優れているのか、もともと優れている人が上位に残るのか、区別できていません。研究者自身が論文の中でそう認めています。
「反応速度トレーニング」は効くのか
「反応速度を鍛えるアプリ・機器」は数多くあります。効果はどうでしょうか。
11,430人が6週間オンラインで脳トレをした大規模研究では、訓練した課題自体は上達したものの、訓練していない課題には転移しませんでした。しかも、認知的に近縁な課題にすら転移しなかったと報告されています。
市販の認知トレーニング機器を扱った43の研究をまとめたレビューでは、スポーツ成績への転移を直接検証したのはわずか1件でした。ある有名機器のレビューでも、遠転移を検証した研究は3件しかなく、うち2件は効果なし、事前登録された研究はゼロでした。
そして、いちばん効くのがこの指摘です。RCT(ランダム化比較試験。参加者をくじ引きで2グループに分けて比べる、いちばん信頼される調べ方)を33件・のべ1,048名ぶん集めたメタ分析が、「練習したことと、テストで測ることが、どれだけ似ているか」で結果を2つに分けました。
| 似ている場合 | 似ていない場合 | |
|---|---|---|
| 反応時間 | 2.66 | 0.50 |
| 視覚的注意 | 1.65 | 0.07 |
| 意思決定の正確性 | 1.46 | 0.62 |
著者の結論は「観測された改善は、真の認知的向上ではなく課題への慣れを反映している可能性がある」。
反応速度テストを毎日やって数字が縮んだとしても、その多くはそのテストが上手くなっただけかもしれない、ということです。
ただし、まったく効かないわけではありません。その競技の映像を使って予測を訓練する方法(相手の動作を途中で止めて、次に何が来るかを当てさせるもの)は、12研究のメタ分析で大きな効果が確認されています。しかも実験室のテストだけでなく、実際のフィールドテストでも効果が残りました。日本でも、ビデオを使った知覚トレーニングで初級打者の予測精度が熟練者の水準に達したという研究があります。
効くのはその領域に固有の予測で、効きにくいのは領域と無関係な汎用トレーニング。ここまでの話とつながります。
歳をとると遅くなるのか
「歳をとると反射神経が鈍る」もよく聞きます。
7,130人を調べた英国の研究によると、単純反応時間は50歳前後まではほとんど遅くなりません。一方、選択反応時間は成人期を通じて遅くなり続けます。ここでも「素の反応」と「判断を含む反応」で挙動が違います。
遅くなる量も、思うほど大きくありません。1,469人の研究では年あたり0.45〜0.55ミリ秒。10年で5ミリ秒ほどです。しかも遅くなるのは刺激を検出する部分ではなく、体を動かす出力側でした。
では、反応時間を測る意味がある場面はないのか ── ひとつあります。転倒予測です。
高齢者477名を対象にした研究で、足を踏み出す方向を選ぶ「選択ステップ反応時間」が、筋力・処理速度・バランスのどの指標よりも強い転倒予測因子でした。転倒した人は平均1,322ミリ秒、しなかった人は1,168ミリ秒。
ただしこれは予測因子を示した研究であって、「反応時間を鍛えれば転倒が減る」を証明したものではありません。実際、厚生労働省の介護予防マニュアルにも日本理学療法士協会の転倒予防ハンドブックにも、「反応時間」という語は出てきません。測るのは握力・開眼片足立ち・Timed Up & Go・歩行時間です。
「反射神経」という言葉はこれだけ広く使われているのに、公の場面ではほとんど出てきません。調べていて面白かったことを2つ挙げます。
- 新体力テストに反応時間の項目はありません。6〜11歳から65〜79歳まで、全4区分のどれにもない。反復横とびは「敏捷性」の測定で、刺激への反応は測っていません
- 高齢者講習でも反応時間は測りません。測るのは動体視力・夜間視力・視野の3つ。認知機能検査は「手がかり再生」と「時間の見当識」の2項目です
つまり日本の公的な場面で、反応時間を個人の能力として測っているところは、ほとんど見つかりませんでした。
では、この数字に意味はないのか
ここまで否定ばかり書いてきました。では反応速度を測ることには意味がないのか、というと、そうでもないと思っています。
測れるものが1つあります。合図が、あなたにどう届いているかです。
先に書いたとおり、音の合図と光の合図では、脳に届くまでの時間が違います。一次聴覚野は約25ミリ秒、一次視覚野は約48ミリ秒。音と光は、同じ「合図」ではありません。
これは教室や運動場で、わりと大きな意味を持ちます。「よーいドン」を声で出す、笛を吹く、手をたたく ── 合図を音だけで出したとき、その音が届いていない人は必ず遅れます。そしてその遅れは、記録の上では「反応が遅い」として残ります。
実際には、反応が遅いのではなく、合図が届いていない。この2つは、出てくる数字が同じでも、まったく別のことです。
逆のことも起きます。先天性のろう者は、遠周辺視野(視野の外側30〜85度)の反応時間が聴者より約146ミリ秒速いという研究があります。さらに手話を使う聴者(手話通訳者)も聴者より速く、ろう者と聴者の中間でした。この話は別の記事で詳しく書く予定です。
とはいえ、ここまで読んだうえでも、自分の反応速度は知りたいと思うのではないでしょうか。わたしもそうです。数字が出ると嬉しいし、遅ければ悔しい。それは自然なことだと思います。
だから「測っても意味がない」とは書きません。意味のある測り方にすればいいというだけの話です。
だから、測り方のほうを変えました
ここまで調べたうえで、反射神経チェッカーの作りを見直しました。順に書きます。
判定は平均ではなく中央値。ただし最速も並べて出します
5回測るうち1回だけ大きく外すことは、誰にでもあります。手が滑った、気が散った、という回です。平均だとその1回が全体を引っ張ってしまうので、年代別の目安と比べるときは中央値(まんなかの値)を使っています。
ただ、いちばん速かった1回を知りたいというのは、人として当然の気持ちだと思います。なので「さいそく」も同じ画面に並べて出しますし、自己ベストもそちらで記録します。隠す理由がありません。判定の土台を中央値にした、というだけの話です。
速さだけでなく「そろっているか」も見せます
5回ぶんの結果をドットで並べて、中央値のところに縦線を引いています。いちばん速い回といちばん遅い回の差も出しています。
速さは、生まれ持ったものの影響を受けます。でもばらつきの小ささは、集中して同じように押せているということで、こちらは誰でも良くなり得ます。褒められる軸が1本しかないと、速い人だけが嬉しい遊びになってしまう。だから2本にしました。
「おとだけ」と対になる「いろだけ」を作りました
「おとだけ」(画面を見ずに、音だけで測る)と「いろだけ」(音もバイブレーションも出さず、画面だけで測る)は、最初から対で考えていました。片方だけだと、聞こえない人か、見えにくい人のどちらかが参加できなくなるからです。
このとき、色だけを合図にすると今度は色が見分けにくい人が困ります。なのできいろの ▲ は「まだ押さない」、みどりの ● は「押す」と、色と記号の両方で示すようにしました。色が分からなくても、形で判断できます。
両方を試すと、自分は目と耳のどちらが速いかが分かります。多くの人は耳のほうが少し速いはずですが、そうでない人もいます。
測定そのものの精度も直しました
以前は指を離した瞬間(touchend)でタップを検出していました。これだと押してから離すまでの時間が丸ごと加算されて、実際より30〜80ミリ秒遅く出ていました。触れた瞬間を取るように変え、合図の起点も「画面に描かれたフレーム」を基準にしています。音の合図には、オーディオ出力の遅延ぶんを足して補正しています。
まとめ
- 「反射神経」という神経はありません。反射(25〜50ミリ秒)と随意反応(150〜300ミリ秒)は別のものです
- 素の反応時間は、2年間競技練習をしても変わりませんでした。変わるのは判断を含む部分です
- 一流選手は反応が速いのではなく、早い手がかりを読めるので、待てます
- eスポーツ上位者も、有意差が出たのは反応時間ではなく空間認知でした
- 汎用の反応速度トレーニングは転移しません。数字が縮むのは、多くの場合そのテストに慣れただけです
- 単純反応時間は50歳前後まで大きく落ちません
- 測れるのは能力より、合図がどう届いているかです
もし「反応が遅い」と言われたことがあるなら、あるいは誰かにそう言ったことがあるなら、その数字が何でできていたかを一度だけ疑ってみてください。合図の出し方を変えるだけで、数字が変わることがあります。
ここに書いたのは一つの考え方で、研究にも限界があります。反応時間の測定は刺激の強さや装置によって値が変わりますし、紹介した研究のいくつかは人数が多くありません。お気づきの点や、現場での実感と違うところがあれば、お問い合わせフォームから教えていただけると助かります。
出典
反射と反応時間の区別・基礎値
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