絵カードのアプリを入れてみたけれど、指が画面に届く前に手が下がってしまう。押したつもりが隣のカードが鳴る。何度も反応してしまって、結局なにを言いたかったのか分からなくなる。

タブレットの画面は平らなガラスです。触ってもどこにボタンがあるのか指先では分からず、押した手ごたえもありません。目で見て、狙って、力を加減して触る。これが全部そろわないと押せない作りになっています。

ここで「このアプリは合わなかった」と片づけてしまうのは、もったいないと思います。指で正確に押すことは、伝えるための唯一の方法ではありません。押せない理由はいくつかあって、理由ごとに別のやり方があります。しかも、手間の軽いものから順に試せます。

この記事は、その順番の話です。

手当ては、軽いほうから順に

1 カードを大きく・少なくする アプリの設定だけでできる。まずここから だめなら 2 画面ではなく、別のものを押す 押しやすい大きなボタンを手元に置いて、そこから選ぶ それも難しいなら 3 1か所の動きだけで選ぶ 順に光るのを待って、目的のところで押す
上から順に試して、だめなら次へ。下ほど手間はかかりますが、動かせる場所が少なくても届きます

こえパレットは、MIDI機器がつながります

MIDI(ミディ)という言葉を初めて聞く方もいると思うので、そこから書きます。

MIDIは、電子楽器どうしをつなぐための共通の決まりごとです。1980年代からある古い規格で、メーカーが違っても、これに対応していればつながります。音楽室にある電子ピアノやシンセサイザー、パソコンで音楽を作るときに使う四角いボタンが並んだ機械(パッドと呼ばれます)にも、たいてい入っています。パソコン用のUSB端子や、Bluetoothでつなぎます。

もともとは「この鍵盤が押された」という情報を送るための仕組みです。こえパレットは、この「押された」という情報を受け取って、絵カードを鳴らします。つまり、楽器をそのまま、絵カードを選ぶためのボタンとして使えます。

これで何ができるか。パッドの1つ1つに、カードを割り当てられます。叩けば、そのカードがそのまま鳴ります。画面を見て狙う必要がありません。

大きくて押しやすいパッドは指1本ではなく、手のひらや拳で叩ける大きさがあります
軽い力で反応する楽器なので、そっと触れただけでも音が出るように作られています
叩いても壊れないスティックで叩かれる前提の作りです。力の加減が難しい子でも気にせず使えます
手に入りやすい楽器店やネットで買えます。支援機器として売られているものより価格が抑えられます
押した場所が光るパッドが光るタイプなら、鳴らしたパッドを光らせて知らせます
MIDIパッドの例(4×4の16個) 四角いゴムのボタンが並んだ機械です。手のひらでも叩けます たべる のむ トイレ いたい はい いいえ もっと おわり 1つのパッド = 1枚のカード 叩くと、そのカードが声で鳴ります 使う分だけ割り当てる 全部埋める必要はありません。 空いているパッドは反応しません 置く場所は自由 机の上、車いすのテーブル、 手が自然に落ちる位置に置けます ※ 8×8(64個)などの大きさもあります ピアノ型の鍵盤(MIDIキーボード)でも同じです たべる のむ トイレ いたい 鍵盤1つ1つがボタンになります。音楽室にあるものが、そのまま使えるかもしれません
パッドと鍵盤に絵カードを割り当てたイメージ(実際の製品の外観とは異なります)

パッドだけではありません。USBでつなぐタイプのピアノ型の鍵盤(MIDIキーボード)でも同じことができます。鍵盤の1つ1つがボタンになるので、「ド」に「たべる」、「レ」に「のむ」といった具合に割り当てられます。音楽室や音楽準備室にある電子ピアノやキーボードが、そのまま使えるかもしれません。

ただし鍵盤は細長いので、押しやすさという点ではパッドのほうが有利です。手のひらで押すならパッド、指先が使えるなら鍵盤、という選び方になると思います。まずは学校にあるものを試してみるのが早いです。

ただし、パッドには何も表示されません

ここが画面をタッチする方法との、いちばん大きな違いです。パッドは、押しても光っても、それがどのカードなのかを教えてくれません。絵カードの絵が出るわけではないので、光ったパッドを見ても「これは何だったか」が分かりません。

ですので実際に使うときは、パッドに紙のラベルを貼ることになります。絵や文字を書いたものを、マジックテープや養生テープでパッドの上に留めていく。手作業ですし、割り当てを変えるたびに貼り替えが必要です。

画面をタッチする方法なら、この手間はありません。カードを入れ替えれば表示もそのまま変わります。パッドを使うということは、押しやすさと引き換えに、この貼り替えを引き受けるということです。日々の運用でいちばん効いてくるのは、たぶんここです。

できないこと、注意すること:
パッドの数だけしかカードを置けません。16個のパッドなら16語です。1列をカテゴリの切り替えに使って語数を増やす設定もありますが、切り替える手間が1回増えます
・機器とタブレットの組み合わせによってはつながらないことがあります。導入前に、実際に使う端末で試してください

動くところが1か所しかないとき

ここまでは「狙ったところを押す」という前提で話してきました。手を伸ばす先が画面かボタンかの違いはあっても、押したいものを自分で狙っています。

では、狙って押すこと自体が難しい場合はどうするか。手は動かないけれど、あごを引く動きならできる。頭を横に倒せる。足の指なら動く。体のどこか1か所で「押す」ができるなら、それだけで選べるやり方があります。

順番に光るのを待って、来たら押す。
画面のカードが1つずつ順番に光っていきます。光は自動で次へ移っていきます。言いたいカードが光ったときに、スイッチを1回押す。すると、そのカードが鳴ります。
押す動作は1回だけ。狙う必要がありません。押せる場所がどこか1か所あればいいので、体がほとんど動かせない場合でも使えます。

この方式は走査(そうさ)、あるいはスキャンと呼ばれています。意思伝達装置の分野では古くから使われている方法で、日本リハビリテーション工学協会がまとめた導入ガイドラインでも、入力方式の1つとして整理されています。

ここまでに出てきた2つの押し方を、並べてみます。

Ⓐ 自分で押す パッドや画面の、言いたいカードを押す たべる のむ トイレ 押す → すぐ鳴る 待ち時間なし。ただし、狙って押せることが必要 Ⓑ 順に光るのを待って押す たべる のむ トイレ いたい はい おわり 枠が2秒ごとに右へ移ります。言いたいカードに来たら、スイッチを押します 狙わなくていい。ただし、いちばん右まで10秒。ひと回りして先頭に戻ります
2つの押し方のちがい。Ⓑは実際の速さで動かしています(間隔2秒・6枚の場合)

スイッチは、押しやすいものを体に合わせて選びます。手のひらで押す大きなボタン、軽く触れるだけで反応するもの、頬やあごで押すもの。福祉機器の販売店で扱っています。

ただし、待たせることになる

走査には、避けられない弱点があります。光が来るまで待たなければいけません。

こえパレットでは光が進む間隔を秒で設定できます。初期値は2秒です。この間隔と、1画面に並ぶカードの数から、待ち時間が決まります。

1画面のカード数間隔2秒間隔1秒
6個長くても12秒長くても6秒
12個長くても24秒長くても12秒
20個長くても40秒長くても20秒

いちばん最後のカードを言いたいとき、20個並んでいれば40秒待つことになります。「のどがかわいた」の一言に40秒です。相手が待ちきれずに立ち去ってしまえば、伝わりません。

だから、走査で使うときは6個くらいから始めます。 慣れてきて、待てるようになってから増やす。カードをたくさん並べたほうが便利という感覚は、走査では逆に働きます。

間隔を短くすれば速くなりますが、短すぎると光が通り過ぎてしまいます。押そうと思ってから実際に押せるまでの時間は人によって違うので、その子が確実に間に合う速さから始めて、少しずつ詰めていくのが安全です。

押すものが体に合っていないと、全部むだになる

最後に、いちばん大事なところです。

スイッチを使う方法は、そのスイッチがその子の体に合っていることが前提です。 ここが合っていなければ、アプリの設定をどれだけ詰めても使えるようになりません。

先ほどの導入ガイドラインにも、こう書かれています。

「操作スイッチの適合が必要不可欠であり、本体とスイッチの両方がそろうことで機器全体のシステムを構築」

スイッチ選びで見るところとして、川村義肢の日向野和夫氏が挙げているのは次の3点です。

動きの質「無理のない滑らかな動き」であること。「過剰な努力を必要とするような余分な動きがない」こと
部位「優位な動作がスイッチの操作となっている」こと
姿勢「座位・臥位のいずれにおいても安定した姿勢と肢位の状態」であること

いちばん大きく動く部位が、いちばんいい場所とは限りません。力をこめて押す動きは長続きしませんし、押すたびに姿勢が崩れれば、次は同じ場所を押せません。

この判断は作業療法士など専門職の領域です。 学校であれば、外部専門家の巡回相談や、地域の支援機器相談窓口に相談できます。ここだけは、先生だけで抱えないほうがいいところだと思います。

まとめ

言いたいことは1つです。指で押せないことは、伝えられないことではありません。

  • まずカードを大きく、少なく。 設定だけで済みます
  • 画面がつらいなら、押すものを手元に移す。 MIDI機器がつながるので、音楽用のパッドをそのまま使えます。ただしパッドには何も表示されないので、ラベルを貼る手間がかかります
  • 狙って押すのが難しくても、1か所動けば選べます。 順に光るのを待って押す方法があります
  • ただし待ちます。 20個並べると最大40秒。走査で使うなら6個くらいから
  • スイッチが体に合っていることが前提。 ここは専門職に相談を

どのやり方が合うかは、実際に試してみるまで分かりません。一度で決まることのほうが少なくて、少し試しては変えて、また試して、を繰り返すことになると思います。その過程そのものが、その子のことを知っていく時間でもあります。

ここではこえパレットというアプリを紹介しましたが、紙の絵カードのほうが合う子もいますし、実際そのほうが早いこともあります。その子が伝えたいことが相手に届くことを、大事にしていきたいですね。

この記事が、コミュニケーションにお困りの方の一助になれれば嬉しいです。

こえパレットのアプリアイコン → Google Play で見る

Android版のみ公開中/アプリの詳しい説明はこちら

参考・出典
・「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン(平成22年度改定版)/ 日本リハビリテーション工学協会「重度障害者用意思伝達装置」導入ガイドライン検討委員会、2010年3月31日
https://www.mhlw.go.jp/bunya/shougaihoken/cyousajigyou/jiritsushien_project/seika/research_09/dl/result/08-01c.pdf
・コミュニケーション障碍の支援④ ~操作スイッチの適合技術~ / 日向野和夫(KAWAMURAグループ)、パシフィックサプライ、2019年4月1日
https://www.p-supply.co.jp/topics/index.php?act=detail&id=535

※ 本記事は2026年8月6日時点の情報にもとづきます。機器の適合については、作業療法士など専門職にご相談ください。お気づきの点はお問い合わせからお知らせいただけると助かります。