反応速度は、練習してもほとんど速くなりません。それは前に書いたとおりです。ではエイムトレーナーは何をしているのか、という話になります。
結論を先に書くと、狙って当てるのは反応ではなく運動課題で、そこには伸びる余地があります。ただし「エイム練習をすると実際のゲームの戦績が上がる」を対照群つきで示した査読研究は、探した範囲では見つかりませんでした。そのあたりも含めて、8つのモードが何をしているのかを書いておきます。
狙って当てるのは、反応ではなく運動
反応速度テストで測るのは「合図が来てから押すまで」です。押す場所は決まっていて、狙う必要がありません。エイムはそこにカーソルを目的地まで運ぶという仕事が加わります。
この「運ぶ」時間には、よく知られた規則性があります。Fitts の法則です。1954年の実験で、的までの距離と的の幅の比から難易度を ID = log₂(2A/W) と定義すると、運動時間がその一次関数になることが示されました。ID 1〜7 bits の16条件で平均運動時間は180〜731ミリ秒、相関は r = .9831 でした。
この法則はマウスやタッチスクリーンでのポインティングにも当てはまり、評価手続きが ISO 9241-9 として標準化されています。準拠していない研究ではマウスのスループットが2.55〜12.5 bps とばらついたのに対し、準拠した9研究では 3.7〜4.9 bits/s に収まりました。
ただし Fitts の法則で全部が説明できるわけではありません。エイムトレーナーのデータを使った研究では、的の大きさが2種類にまたがると Fitts の法則ではうまく記述できなかったと報告されています。的を撃つという課題は、実験室の到達運動より少し複雑だということです。
8つのモードと、鍛えられる力
モードを8つに分けたのは、上の「運ぶ」仕事が場面ごとに違うからです。遠くへ大きく振る動きと、小さい的に止める動きは、別の練習になります。
| モード | 内容 | 鍛えられる力 |
|---|---|---|
| 早撃ち | 的が常に3つ。当てるとすぐ別の場所に出ます | 連続で撃つリズム、視線の切りかえ |
| 振り向き | 1つずつ、前の的から遠い場所に出ます | 大きく振って止める精度 |
| 追いかけ | 動く的にカーソルを重ね続けます。クリック不要 | 追い続ける安定性、手首の細かい制御 |
| 中心もどり | 中心 → 外側 → 中心 …と交互に出ます | 基準点に戻る動き、距離感の一定化 |
| 精密 | 的が小さく、外すと −50点 | 撃つ前に止める判断、ムダ撃ちの抑制 |
| サバイバル | 的が縮んで消えます。逃すと3回で終了 | 優先順位づけ、プレッシャー下の処理 |
| 見わけ撃ち | 撃つ的と、撃ってはいけない的が混ざります | 撃つ前に見分ける判断、誤射の抑制 |
| ウェーブ | 横一列・円・十字などの隊形が一斉に出ます | 撃つ順番の組み立て、視野の広さ |
レベルは1〜5で、的の大きさ・動く速さ・振り向きの飛距離・サバイバルの間隔をまとめて動かします。Fitts の法則の言い方をすれば、レベルを上げるとは ID を上げるということです。難しさが変わると点数の意味も変わるので、自己ベストと履歴はレベルごとに別に保存しています。
見わけ撃ち ── 撃たないという選択
丸い的は撃つ、四角に×の的は撃ってはいけません。撃つと150点引かれ、コンボも切れます。
これは心理学でいう Go / No-Go 課題 と同じ形です。速く反応する力と、出かけた反応を止める力は別のもので、40人以上の研究者による合意ガイドは、止まる速さは直接観測できない潜在変数だと整理しています。うまく止まれたときには反応が出てこないからです。同じガイドは、「はじめから出さない」課題と「出しかけたものを打ち消す」課題では神経の基盤が部分的に違う可能性にも触れています。
ふつうのエイム練習は速く撃つ側しか使いません。撃つ的と撃たない的は色だけでなく形も変えてあるので、白黒+形の設定でも成立します。
3つのグラフの読みかた
先にプレイ中の話をします。アリーナの下に、直近10発の命中率と1発ごとの反応時間が上下2段で描かれます。単位のまったく違う2つを1枚に重ねると、どちらの軸の話なのか分からなくなるので、あえて段を分けています。上段の太い線が直近10発、うすい点線が累計なので、太い線が点線より下にいれば、いま崩れている最中ということです。
そして終わったあと、結果画面で3つ出します。スコアだけでは、次に何を直せばいいのか分からないからです。
反応時間の分布。的が出てから当てるまでの時間を棒グラフにしたものです。山が左にあるほど速く、幅がせまいほど安定しています。平均だけ見ていると気づけませんが、たまに極端に遅い1本が混ざるタイプの人は、まずそのばらつきを減らすほうが平均が下がります。1発目は「開始してから動き出すまで」を含むので、このグラフからは除いています。
ミスの方向のかたより。クリックした点が的の中心からどちらへずれたかを重ねた図です。右下に寄る人が多いのは、カーソルが止まりきる前に押しているためで、オーバーシュートと呼ばれます。上下だけにずれるときは、感度よりも椅子や机の高さ、モニターの位置を見直すと直ることがあります。
時間ごとの調子。1回のプレイの中で反応時間がどう変わったかです。右へ行くほど線が上がっていれば、後半で落ちています。
命中率が先で、速さが後
速く動かすほど終点はばらつきます。この速さと正確さのトレードオフは、昆虫からげっ歯類、霊長類まで、選択行動から逃れられない性質だと総説にまとめられています。エイムトレーナーのデータを使った研究でも、的が大きい課題と小さい課題を組み合わせて、撃つまでの時間と的の中心からの距離のトレードオフ曲線として個人の巧さを測っています。
つまり、速さと正確さは同時に上げるものではなく、どこで釣り合わせるかを選ぶものです。このページのランクを TPS×命中率2 にして命中率を二乗しているのは、そのためです。雑に撃つとランクは上がりません。得点も、速さボーナスより命中率のほうが効くように組んであります。
結果画面の下には、その回の数字から次に何をすればいいかの一文も出します。上の例は命中率98%に対してTPSが1.47なので、正確さのほうに寄りすぎている、という判定です。逆に命中率が低いまま速いときは、速さを落とす側の文が出ます。
順番としては命中率を先に安定させてから、速さを上げるほうをおすすめしています。外してから撃ち直す時間のぶん、雑に速く撃つほうが結果的に遅くなるからです。これは研究の結論ではなく、このページの設計上の考えかたです。
マウス感度は「両端の壁」だけ分かっている
「最適な感度はいくつか」を調べた査読研究は、探した範囲では見つかりませんでした。cm/360 や DPI を直接あつかったものはありません。
分かっているのは両端です。マウス感度にあたる CDゲイン を操作した研究では、低すぎると腕の最高速度(実験では約1.5 m/秒)とマウスの持ち替えで損をし、高すぎるとオーバーシュートが増えると報告されています。同じ研究は「人間の速度と正確性の限界に近づくまでは、CDゲインはポインティング成績にほとんど影響しない」とも述べています。つまりその間はかなり広く、鈍感だということです。
関連して、FPSプレイヤー72名を対象にマウスの質量だけを変えた研究では、100gに比べて50g・60g・90gで4%速く9%正確、また低いCDゲインのほうが34%正確・14%精密という結果が出ています。
このページのFAQでは、数値ではなく「マウスパッドの端から端まで動かしたとき、画面をちょうど2〜3周ぶん動かせるか」を目安として書いています。振り向きモードで毎回行き過ぎるなら高すぎ、腕を大きく動かしても届かないなら低すぎです。変えたら数日は固定してください。
30秒を、日をまたいで
同じ総時間なら、1日に詰め込むより日をまたいで分けたほうが有利という結果が、複数の運動スキルで出ています。新しい歩行パターンの学習では、1日に詰め込んだ群より2日に分けた群のほうが技能獲得も転移も有意に大きく、腹腔鏡手技では成績が 分散 > 休憩+仮眠 > 休憩 > 集中 の順でした。微小血管吻合の訓練でも、1日1セッションの群が1日6セッションの群を上回っています。
エイムトレーナーの大規模データにも同じ話があります。7,174名・68万回・最長100日を追った研究で、ある日の追加練習の恩恵は非単調で、伸びが最大になったのは練習1時間程度、学習効果の90%は1日30分で達成されていました。1日から翌日への保持率は40〜60%でした。
ただし「分ければ必ず良い」わけではありません。ごく短い離散的な課題では、集中練習のほうが有利だったという古典的な報告もあります。連続的な課題では分散が効き、離散的な課題では逆だった、という分かれ方です。
結果画面の「時間ごとの調子」で後半が落ちているなら、長くやるほど強くなるわけではないという合図です。30秒を何回かに分けてください。
マウス・指・ペンで記録を分ける理由
同じスコアでも、何で操作したかで意味が変わります。指はマウスより1発が速く出せます。画面の位置に直接触れるので、カーソルを運ぶ時間がいりません。そのかわり中心をとらえるのは不利です。タッチの座標は指が触れた面の重心なので狙った点よりずれますし、そもそも指が的を隠します。
そこで1発ごとに入力機器を記録し、自己ベストと履歴をデバイスごとに分けて保存しています。1回のプレイで2種類以上を混ぜた場合は「まざり」として別枠に入ります。
読みかたの目安です。指はTPSが伸びやすく中心率が落ちやすい。マウスは中心率が上がりやすい代わりに、大きく振る動きに時間がかかる。「ミスの方向のかたより」がタッチで下寄りに出るのは、多くの場合フォームの問題ではなく、指の接地面の重心が指先より下にあるためです。
照準の補助にスコア倍率をかけている理由
設定で、画面中央に十字線を出したり、いちばん近い的まで線を引いたりできます。対戦型FPSでいうクロスヘア・オーバーレイと同じ発想のもので、実際のオンライン対戦ではほぼすべてのタイトルで不正行為にあたります。ここでの補助は練習用の補助輪で、他人と競う場に持ち込むものではありません。
練習で使うのはアリだと考えています。画面のどこが中央なのか、いま自分の狙いが的の中心からどれだけ離れているのかが分からないまま数をこなしても、ずれ方の癖は直りません。ただし補助ありの点数を、なしの人の点数と並べるのはフェアではないので、補助を出している間はスコアに倍率をかけて下げます(十字線 ×0.85、目盛りつき ×0.80、的まで線 ×0.65)。結果画面には補助なしなら何点だったかも並べて出します。
クリック不要モードや的の拡大、ゆっくりモードといったユニバーサルデザインの設定には倍率をかけていません。あれは補助輪ではなく、同じ土俵に立つための調整だからです。
実際のゲームに効くのか ── 正直な現在地
ここが一番書きにくいところです。「エイムトレーナーで練習したら実際のFPSの戦績が上がった」を対照群つきで検証した査読研究は、探した範囲では1件も見つかりませんでした。
分かっているのは、ここまでです。
- トレーナー内の指標は再現性が高い。eスポーツ選手10名に3〜5日あけて同じ課題をやってもらった研究で、級内相関係数は0.947〜0.995でした
- トレーナー内では長く伸び続ける。7,174名・68万回の分析で、命中率の改善は控えめだった一方、1秒あたりに倒せた数は相当に改善し、実験室課題のように早期に頭打ちにはなりませんでした
- FPSのエイム動作は、実験室の到達運動と運動学的にほぼ同じ。視点をパン・チルトさせる文脈と、カーソルが静止背景上を動く文脈とで、運動学はほぼ同一でした
そして、これに逆風もあります。練習の効果は課題に特異的で、遠くの課題へはめったに転移しません。11,430名が6週間オンラインで訓練した大規模試験では、訓練した課題すべてで成績が上がったのに、未訓練課題への転移は認知的に近縁な課題に対してすら見つかりませんでした。ビデオゲーム訓練のメタ分析(k = 310〜359)でも、効果量は小さいかゼロでした。
素直に読むと、こうなります。エイムトレーナーで上がるのは、エイムトレーナーでやった動作です。それが実際のゲームにどれだけ移るかは、動作がどれだけ似ているか次第で、そこはまだ測られていません。
利益相反について。上に挙げたトレーナー内の学習曲線とトレードオフ曲線の研究は、いずれもエイムトレーナー Aim Lab の開発元である Statespace Labs の資金提供・所属著者によるもので、論文内に利益相反として明記されています。
まとめ
- 反応速度は鍛えられませんが、カーソルを運ぶところは運動課題なので伸びます
- 運ぶ時間は的までの距離と的の幅で決まります(Fitts の法則)。レベルを上げるとは、その難易度を上げることです
- 速さと正確さは同時に上げるものではなく、どこで釣り合わせるかを選ぶものです
- マウス感度は両端の壁だけ分かっていて、その間は広く鈍感です。最適値を示した研究はありません
- 同じ総時間なら日をまたいで分けたほうが有利。1日30分で学習効果の9割という報告があります
- 指・マウス・ペンは別物なので、記録も別に保存しています
- 実ゲームへの転移を示した査読研究は、まだありません
反応の速さそのものを測りたいときは反射神経テストのほうが向いています。7つのモードがそれぞれ何を測っているのかは別の記事に書きました。
ここに書いたのは一つの考え方で、研究にも限界があります。紹介した研究には人数の多くないものや、有料壁のためアブストラクトしか確認できていないものが含まれます。お気づきの点があれば、お問い合わせフォームから教えていただけると助かります。
出典
Fitts の法則とポインティング
- Fitts PM (1954) The information capacity of the human motor system in controlling the amplitude of movement. Journal of Experimental Psychology 47(6):381–391 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov(書誌のみ確認。内容は下記 MacKenzie 1992 の全文で確認)
- MacKenzie IS (1992) Fitts' law as a research and design tool in human-computer interaction. Human-Computer Interaction 7(1):91–139 yorku.ca
- Soukoreff RW, MacKenzie IS (2004) Towards a standard for pointing device evaluation: Perspectives on 27 years of Fitts' law research in HCI. International Journal of Human-Computer Studies 61(6):751–789 yorku.ca
速さと正確さのトレードオフ
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- Donovan I ほか (2022) Assessment of human expertise and movement kinematics in first-person shooter games. Frontiers in Human Neuroscience 16:979293 pmc.ncbi.nlm.nih.gov
抑制(撃たない課題)
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マウス感度(CDゲイン)
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- Conroy E, Toth AJ, Campbell MJ (2022) The effect of computer mouse mass on target acquisition performance among action video gamers. Applied Ergonomics 99:103637 pubmed.ncbi.nlm.nih.gov(アブストラクトのみ確認)
練習の分け方
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トレーナー内の学習と信頼性、そして転移
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